The previous night of the world revolution~T.D.~
ルティス帝国は、建国以来。

ベルガモット王家を中心に、帝国騎士団がそれを支え。

その体制を維持して、他国に占領されることもなく、上手いこと回ってきた。

一時、不況の折に『天の光教』なんて怪しげな宗教組織が台頭してきて、揺れたことはあったが。

それだって、帝国騎士団は上手く立ち回ってみせた。

まぁ、それは『青薔薇連合会』のお陰でもあるのだが。

俺のお陰でもあるのだが。

そして、景気も無事回復傾向を見せ、再び多くの国民がもとの生活を取り戻しつつある今。

結局国民達は、ルティス帝国に政変改革は必要ない、と判断した。

見てみろ。今の国民達を。

あれだけ批判しまくっていたアルティシア女王の存在も、帝国騎士団の存在も、スルーしている。

手のひら返し凄過ぎだろ。

何ならあいつら「え?俺達そんなこと言いましたっけ?」とか言いそうな勢いだからな。

結局、そういうことなのだ。

確かにヒイラ坊やの言うように、今も、貧民街で苦しんでいる人はいる。

昔のルルシーやアリューシャ達みたいに、日々を生きていくことさえ大変な人もいる。

けれど、非情なことを言うようだが。

ルルシー達の苦労を、侮辱するつもりは決してないけれど。

それでも、彼らのような存在は、ルティス帝国総人口の、ほんの数%にも満たない。

9割以上の大勢の人々が、それなりに満足して暮らしているのだ。

そりゃあ、皆が皆貴族みたいに金持ちではないけれど。

それなりに、充実した生活を送っている。

これまで王制で上手いことやってきた、その実績があるのだ。

『天の光教』事件で一悶着ありながらも、結局やっぱり元の鞘に収まった訳だし。

国民達は『天の光教』事件で、再確認したことだろう。

意識していても、していなくても。

「別にルティス帝国、今のままで悪くないじゃん」ってな。

勿論、取りこぼされた数%の貧しい人々を、忘れている訳ではない。

帝国騎士団もそれは承知の上だし、ほんの少しでもそんな人々を救おうと、努力はしている。

何もしていないことはない。

しかし、それでも、どうしてもそういう人々が生まれてしまうのだ。

そりゃあ、国民の100%が幸せに暮らせりゃ、それが最高だよ。

シェルドニア王国みたいな例外はあるけどな。

でも、どうしても100%は救えない。

なら、せめて他の99%は救おう。

それが、現状のルティス帝国なのだ。

いくら1%が叫ぼうと、99%の人々の生活を保証するためには、1%の声を無視するしかない。

それは仕方のないことであり、どうしようもないことだ。

完璧な人間なんていない。

そして、その不完全な人間が作った国が、完全であるはずがない。

ほぼ完全、くらいが精々だろう。

ルティス帝国は現状、その「ほぼ完全」状態にある。

だから、現状を変える必要はない…と、俺は思うのだが。

ここにいる人々、そして壇上に立っている、ヒイラ坊やは、違う意見をお持ちのようだ。
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