The previous night of the world revolution~T.D.~
…しかも。

開けてびっくり、この募金箱。

普通、スーパーやコンビニのレジに置いてある募金箱と言ったら。

中に入っているのは、精々10円玉や100円玉や、まぁ小銭が入っている程度。

たまーに、千円札とか入ってることもあったりして、「世の中には金持ちがいるもんだな」とちょっと嫉妬することもあるが。

…一万円札がぎっしりと詰まってる募金箱って、皆見たことあるか?

俺はある。

今、この瞬間だ。

そもそも募金箱に万札を入れるという、その行為を、まず見たことがある人はどれだけいるのだろう。

コンビニで買い物してるとき、募金箱に万札入ってるのを見たことがある人、いるか?

俺はない。

まぁ、余程大きな災害が起きて、その復興事業の為の募金です!とかいうときなら。

万札が入ってても、おかしくはない。

むしろ、主催者側が敢えて大きな金を入れ、他の人に募金欲を抱かせる高等テクニックを使ってる場合もあるのだろうが。

それにしたって、この募金箱は異常だ。

もう、募金箱の域を越えてる。

現金でやり取りするレベルじゃないぞ。もういっそ、『帝国の光』募金口座を作って、そこに振り込んでもらった方が良いのでは?

俺、募金箱に詰まったナマの万札、一枚ずつ数えさせられてるんだが。

最初の募金箱を開けたときは、何だか左団扇で暮らしてるみたいで、ちょっとした愉悦感があったが。
 
何度も何度も万札を数えていると、段々万札の価値が、そこらの紙くず同然になってくる。

最早苦行でしかない。

これ、人力でやることじゃないだろ。

しかも、万札だけじゃなくて、たまに五千円札とか千円札も混じってるので、間違えそうになる。

ついでに言うと、小銭も少なからず入ってるので、それを数えるのも一苦労。

機械にでもなった気分だ。

おまけに、腹が立つのは。

俺が、こんな毒にも薬にもならない仕事を押し付けられているのは。

ヒイラの信用を受けていないから、という点だ。

俺は、機械になったつもりで紙幣を数えながら。

頭の中では、ヒイラ・ディートハットのことを考えていた。

奴は、『ルティス帝国を考える会』を始め、国内にある共産主義組織に次々に声をかけ、手を組んでいる。

確実に、人員を増やし、自分達の地盤を固めようとしているのだ。

その流れに従い、元々は『表党』に分類された党員も、最近『裏党』に加入することが増えている。

人間の数が集まれば、当然金も集まる。

俺の目の前にある、分厚い札束が何よりの証拠。

そして、集めた人員と資金を、何に使うのか。

ヒイラの目的は、言うまでもなく打倒帝国騎士団、打倒ベルガモット王家だ。

その為に彼は、対話と相互理解によって、国を変えると言った。

だが、俺はその点に疑念を抱いていた。

ルレイア先輩も気づいているとは思うが、俺もとっくに気づいている。

対話と相互理解による政変なんて、そんな悠長なことでは、国は変わらない。

誰もヒイラ達の声に耳を貸さないし、そりゃあ時間をかけて訴え続ければ、いつかは誰かが振り向くかもしれないが。

彼が望むような、今すぐの政変は不可能。

口では悠長なことを言いながら、急速に人員と資金を集め、急速に事を進めようとしている。

言ってることとやってることが、矛盾している。

つまりヒイラは、何かを隠しているのだ。

俺の仮面の勘がそう言ってる。

そして、同じ『裏党』であるはずの俺にも、その秘密を教えてはくれていない。

未だに、あの家具家電監視付きの、素敵なアパートに住まわされている。

こんな、誰にでも出来る、しかし時間だけはたっぷりかかる、憂鬱な仕事を押し付けられている。

俺は未だに、ヒイラの信頼を得ていないのだ。
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