The previous night of the world revolution~T.D.~
「隠してることがありますよね?」

「な、な、何のことかな〜?お姉ちゃんは、な〜んにも隠してませんよ〜」

ほう。

あくまで、しらばっくれるつもりか。

ならば、良いだろう。

こちらから、種明かしをさせてもらうだけだ。

「…このカレー。ずばり、お隣のクランチェスカ夫妻に、お裾分けしてもらったものですね?」

「ぎくっ」

やはりな。

「うちにはない、見慣れない鍋。セカイさんが作れるはずのない、絶妙に配合されたスパイスの香り…。これは間違いなく、熟練主婦のものです」

「そっ…そんなことないよ?私だってじゅ、熟練主婦だよ?」

「証拠はそれだけではありません」

「えっ、えっ?」

セカイさんが熟練主婦であるはずがない、という点は。

まぁ、置いておくとして。

それ以外にも、このキッチンには証拠が残されている。

「まず、僕が昨日作った、濃厚ベイクドチーズケーキ。またしても作り過ぎてどうしよう、と思っていたあのケーキの残りが、なくなっている」

冷蔵庫をに入れていたはずのケーキが、なくなっている。

更に。

「そ、それは」

「そして、毎晩お風呂で『あ〜もうちょっと痩せたいな〜』とか言っときながら、毎日三時のおやつを欠かさないはずのセカイさんが、毎日コップ一杯飲む紅茶飲料のペットボトル、この残量が、昨日から全く減っていない」

「よく気づいたね!?って言うか、余計な情報まで言わないでくれるかな!?」

「おまけに、その三時のおやつのお供である三連プリンも、昨日から減ってない」

「よく見てるね、そんなところまで!」

済みません。

生まれたときから、周りの目はよく見ておけ、と躾されていたもので。

それに主夫として、冷蔵庫の中身を把握しておくのは、当然の義務というもの。

「これらから推測するに、セカイさん、あなたは今日、チーズケーキのお裾分けをしに、クランチェスカ家を訪ねましたね?」

「うっ…」

「そこでお隣の奥さんに、『お茶でもどうぞ』と誘われ、午後のティータイムはお隣で過ごした」

「うぬぬ…」

「そしたらお隣の奥さんが、恐らく今晩の仕込みを…つまりこのカレーを…作っていたところだったんでしょう。『今夜はフューニャちゃん家、カレーなの?』、『そうなんですよ。たくさん作ってあるので、良かったら持って帰ります?』、『えっ?良いの!?ありがとー!助かる〜!』みたいな会話をして、お隣の奥さんから、このカレーをお裾分けしてもらってきたと」

「会話再現が完璧過ぎるんだけど!?見てた!?まさか何処かで見てたの!?」

まさか。ルリシヤさんじゃないんだから。

でも、セカイさんだったら、そんな会話になるだろうな〜と思って。
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