The previous night of the world revolution~T.D.~
『帝国の光』は、金を集める為だけに、わざわざ派遣員を寄越してきた。

それも、両手で抱えるほど大きな募金箱を持って。

「皆喜んで、こぞって有り金放り込んでましたよ」

と、呆れたように言うルレイア殿。

俺も、あれには目を見張った。

募金と言ったら大抵、硬貨を数枚入れるものだと思っていたが。

『ルティス帝国を考える会』の会員全員が、財布を取り出して。

財布の中の小銭どころか、紙幣もあるだけ全部投入していた。

しかも、全く躊躇うことなく。

一万円札まで当たり前のように放り込まれるんだから、通常の募金の域を越えている。

運悪く、その日財布の中にあまりお金を入れていなかった者は、「次はいつ来てくれるんですか?」と派遣員に尋ねていた。

次、『帝国の光』から派遣員が来るときは、財布の中を豊かにしておくつもりなのだろう。

「…異常だな…」

ルルシー殿が、怪訝な顔で呟いた。

その気持ちは、よく分かる。

若者達が、目をギラつかせて、財布をひっくり返すようにして、大きな箱の中にお金を入れている様を見ると。

俺だって、同じことを思った。

ルレイア殿もきっと、おな、

「全くですよ。立派な大人の模範的存在である俺を、少しは見習って欲しかったですね」

「…」

「…」

「?」

「…ともあれ、ルレイアも…その募金には、参加したんだろう?」

ルルシー殿が、無理矢理会話を引き戻してくれた。

良かった。

俺一人だったら、また何も言えなくなるところだった。

「そりゃあ、俺は『考える会』の忠実なお仲間ですからね。彼らに習って、お財布空っぽにしてきましたよ」

してましたね。

「まぁ、スパイ用に用意した、数千円しか入れてない貧弱な財布の方ですけど」

「本物の財布だったら、黒いカード入ってるもんな、お前…」

そんなカードを持っている学生は、なかなかいないだろうな。

「それで、ルーシッドも募金には参加したのか?」

「あ、いえ…俺は」

ルルシー殿の質問に、自分で答えようとしたが。

その前に、ルレイア殿が食い気味に割り込んできた。

「ルーシッドは、献金に参加してない唯一の非党員ですよ。それはそれは、皆からしろ〜い目で見られてました。ウケる〜」

「ウケるな」

…ウケるところではありません。

「…それは、仕方ないことです。俺は…『考える会』の方針と逆のことをするのが、役割ですから」

皆が募金に参加している中、俺一人だけ、1円たりとも箱の中には入れなかった。

俺がそんな批判的なことをするのを、他の会員達は、表立って責めることはなかったものの。

ルレイア殿の言った通り、責めるような白い目で見られた。

それでも、俺は「『帝国の光』には反対している」ことを示す為に、頑なに財布を出すことはしなかった。

そしてこれからも、1円たりとも彼らに献金するつもりはない。

この態度が、他のメンバー達にとって、どのように見られたとしても。
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