The previous night of the world revolution~T.D.~
「…俺はルナニア・ファーシュバル。宜しくお願いします」

エリアスの挨拶が終わったタイミングで、俺はヒイラに自己紹介をした。

…偽名だけどな。 

「あぁ!宜しくな、同志ルナニア。君も気さくに話してくれて…」

「では一つ、意見させて頂いても?」

「…?何だ?」

ヒイラのみならず、エリアスも首を傾げていた。

だからお前は馬鹿なんだよ。

それでも貴様は、ルティス帝国総合大学の学生か。

いや、もうお前は学生ではないな。

講義にすらまともに出てないんだから、学生失格だ。

それを言うならお前もだろ、って?

俺は良いんだよ。最初から、学生なんて偽りの身分でしかなかったんだから。

俺は、『青薔薇連合会』の幹部だ。

ルレイア・ティシェリーとして、今ここにいる。

だから。

「『帝国の光』に…更には『裏党』に入党させてもらって、大変光栄です、同志ヒイラ」

「そうか。それは良かった」

「…ですが」

「うん?」

「あれは何ですか?昨日見せられた…あの拷問の映像は」

「…」

ヒイラのみならず。

エリアスも、ぽかんとして固まっていた。

ルリシヤが『裏党』に入党したとき、彼が見せられたのは本物の拷問の様子だったそうだが。

今回俺とエリアスが『裏党』に入党したとき、見せられたのは拷問の映像だった。

多分、丁度都合良く拷問する人間がいなかったから。

代わりに、録画した映像を見せたのだろうが。

実物だろうが映像だろうが、やってることは変わらない。

拷問をしているという、その事実は。

「入党してきた者に、いきなりあんなものを見せるというのは…どうかと思います」

エリアスは、相変わらず固まっていた。

お前、あのヒイラ・ディートハットに、反対するような意見を述べるなんて、とでも言いたそうだな。

俺は言うぞ。お前と違ってな。

「…あぁ、あれな」

ヒイラは、瞬時に冷静さを取り戻した。

「ごめんな、耐性がなかったらキツいよな。不快な思いをさせて悪かったよ」

不快な思いなんてしてない。

あの程度の拷問、職業柄、いくらでも見慣れている。

そういう問題ではない。

「そうではなく、『裏党』入党者にあのようなものを見せること自体が、如何なものかと思います」

「る、ルナニア!」

あまりに行き過ぎた言葉に、思わずエリアスが口を挟んできたが…。

お前は黙ってろ。腰抜けめが。

それでも口を挟みたいってんなら、お前にも意見を聞いてやろう。

「エリアスも思ったでしょう?入党するなり、いきなり試すようにあんなものを見せられて。疑問に思わなかったんですか?何故あんなものを見せるのか」

「そ、それは…。でも、致し方ないことなんじゃないのか?党員の方も仰ってたじゃないか。密告者や裏切りを防ぐ為だって…」

そんな方法でしか密告と裏切りを防げないとは、随分と信用のない組織なんだな。

…と言うのは、さすがに言い過ぎなので。

ここであまり目立って、過剰に目をつけられるのも嫌だからな。

敢えて、知的に意見を申し上げるとしよう。

「それは俺も分かります。しかし、これから『帝国の光』に賛同して入党する若者達の全員が、あのような映像を見せられれば、不快な思いを…いえ、不信感を抱かないとも限らない。そう思って、進言させて頂いたのです」

「…不信感?」

「はい。『帝国の光』は、同志ヒイラが常々述べておられるように、党員は皆平等。中には、苛烈な暴力ではなく、平和的な話し合いによって、事を解決することを望む者もいるでしょう。そういう者にとっては、あのような映像を見せられることは、組織への不信感を募らせる原因となりかねません」

「…成程。一理あるかもな」

と、頷くヒイラ。

その顔には、いつもの明るさが戻っていた。

「ですから、あの方法での入党は、ご再考頂いた方が良いのではないかと愚行致しますが…」

「そうだな、分かった。また考えてみるよ」

変える気なんてない癖に。

よく言うよ。
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