The previous night of the world revolution~T.D.~
あの悪名高い『白亜の塔』の開発資料を、シェルドニア王国から盗み出し。

大海原を越えてルティス帝国に、しかも『帝国の光』などという、異国人にとっては得体の知れない組織に手を貸し。

ルティス帝国に、シェルドニアの洗脳システムを導入せんとする、とんでもない不埒者。

どんな曲者が現れるのか、と思ったら。

…こっちは、もっと拍子抜けだった。

「あぁ、君か。同志ルニキスが引き抜いた、ルティス帝国総合大学の学生は」

やって来たのは、若くもないが年寄りでもない、壮年の男性。

そして若ハゲ。

気の毒だなお前…。その歳でその薄らハゲって、将来に不安しかないだろ。

しかも、腰回りにもたっぷり脂肪がついている。

糸目で二重顎、早くも後退しつつある額が、テカテカと光っている。

そして、この薄ら笑い。

…うわぁ…。

女子高生に嫌われる、小汚いおっさんナンバーワンだな。

これが、シェルドニア王国の貴族?

品格の欠片も感じないな。

ついでに知性も感じないよ。

それでも、母国語であるシェルドニア語ではなく、流暢なルティス語で喋っている辺り。

一応貴族の端くれというのは、本当らしい。

「初めまして、ルナニア・ファーシュバルです」

「うん、聞いてるよ。ルティス帝国で一番頭の良い大学から来たんだよね」

喋り方がもうキモい。

「一番だなんて…そんな」

「いやいや、謙遜しなくて良いんだよ。君みたいな優秀な人材がチームに入ってくれて、嬉しいよ」

俺は、お前と一生出会いたくなかったけどな。

…すると。

挨拶を済ませるなり、ルリシヤが博士(キモい)に尋ねた。

「博士。どうでしたか?昨日の収穫は」

昨日の収穫…。

確か、『白亜の塔』に関する資料がルティス帝国内にあるかどうか、探しに行ってたんだっけ?

「何か見つかりましたか?」

「少しでも、手がかりになるような文献は…」

他のメンバー達も、博士の収穫に期待しているようだ。

…しかし。

「いやぁ、残念ながら…。それらしいものは見つけられなかったよ」

情けないにも程があるな。

その顔と言い、図体と言い。

「そうでしたか…。それは残念です」

ルリシヤは、さも残念そうな顔をしてみせた。

更に、真剣な眼差しでこう続けた。

「しかし、まだ諦めるには早いでしょう。超大国であるシェルドニア王国で開発された技術が、同じく超大国のルティス帝国に、全く伝わっていないはずがない」

と、ルリシヤが断言するものだから。

開発チーム一同、その通りだとばかりに頷いた。

…成程。

「そういうこと」にしてるんですね。
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