The previous night of the world revolution~T.D.~
「え、な、何?」

「これ、ちょっと聞いた話なんだけど…。他の皆には内緒ね?」

「な、何々?何かあったの?」

誰しも。女の子なら特に。

「内緒話」には、弱いものだ。

こんな言い方をされたら、ついつい聞きたくなるだろう?

「『帝国の光』の中でも、派閥?みたいなのがあるんだって」

「何それ?派閥?」

「そう。ヒイラ党首に気に入られた人達の派閥と、そうじゃない人の派閥」

「嘘。そんな噂、聞いたことないよ」

当たり前だ。

私が今、初めて流した噂なんだから。

私自身が、噂の発生源となるのだ。

「じゃあ、集会で仕切ってるあの人や、今日講演してる人も、その、気に入られた派閥の人達ってこと?」

「多分、そうだと思う」

彼女は、怪訝そうな、不満そうな顔をしていた。

本当にそんな噂があるのか、もしその噂が真実なら、自分はお気に入りには選ばれなかったということなのか、と。

そんな、困惑の表情だ。

「何それ?どういう基準で、お気に入りとかお気に入りじゃないって判断されるの?やっぱり、革命精神如何ってこと?」

「分かんない。でも心当たりならあるでしょ?」

「心当たり…?」

「ほら、入党したとき、試験とか面接とか受けさせられたでしょ?あのときだよ」

「…!」

気づいたようだ。

「嘘。あれって、そういう試験なの?単なるアンケートみたいなものだって説明だったのに」

「私も、最初聞いたときは信じられなかったよ。だけど、選別するときって言ったら、あのときしかないでしょ?」

「…確かに…。あのとき私達、選別されてたの?」

良い感じ。

上手く誘導出来てる。

この調子で、どんどん組織への不信感を募らせる。

「ほら、何だか履歴書みたいな紙渡されて、学歴まで書かされたじゃない?」

「うん…。何でそこまで聞くのかな、とは思ってたけど…」

「あの学歴調査で、賢い人と、そうでもない人を分けてるんだって噂」

「えぇ…」

彼女は、ちょっと引いた様子だった。

この「噂」が本当なら、それは『帝国の光』の掲げる平等主義に反するから。

学歴や、その人の能力で人を区別するなら、それは今のルティス帝国社会と変わらない。

「もしこの話が本当なら、あの人達が偉そうなのも納得よね」

「それって、私達を下に見てるってこと?…何それ…」

…このくらいかな。

今日のところは。

「まぁ、あくまでそういう噂があるってだけだから…。本当かどうかは分からないけど」

あくまで、真相は分からないということにしておかなくては。

これ以上は、踏み込み過ぎだ。

「そうよね。こんな噂…本当だったら、皆『帝国の光』を信じられなくなるもの」

「うん。だから、ここだけの話ね」

「分かった」

ここだけの話、と言いながら。

私は、彼女がこの話を他に広めてくれることを、切に願っていた。
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