The previous night of the world revolution~T.D.~
名前を覚えてもらえていて、光栄だが。

そんなことより。

「アシミムはどうした?一緒に連れてこいと伝えたはずだが」

俺は、ルティス語でそう言った。

雑兵には通じないが、ルシードやアシミムには、ルティス語が通用する。

生憎俺も、全部シェルドニア語で喋れるほど、言語が堪能じゃないからな。

ルティス語が通じるなら、そちらで会話させてもらうぞ。

すると。

「主は来ない。貴殿らの来訪は聞いていない。訪客の目的も知らないまま、主に会わせる訳にはいかない」

ルシードの方も、ルティス語で返してきた。

多少訛りはあるが、充分聞き取れる範疇だ。

そして、さすがはルシード。

あの悪夢のような『ホワイト・ドリーム号』で、俺達を陥れただけのことはある。

そこらの雑兵とは、訳が違う。

恐怖に目が眩んで、守るべき主を、敵の矢面に出すことはしない。

当たり前だが。

「貴殿らの目的が分からないことには、主に会わせる訳にはいかない」

ほう。

「…そんなことが言える立場だと思ってるのか?」

俺はルシードの方を向いたまま、拳銃を握った片手を後ろに向けた。

そこには、異国語で話す俺達を、怯えた様子で見守っているシェルドニア兵がいる。

拳銃を向けられた彼らが、息を呑む声が聞こえた。

人質にしては弱いが、脅しにはなる。

「お前達の、この国の秘密を。先王暗殺事件の真相を。黙ってやってるのは誰だと思ってる?それとも…ルレイアじゃないから、大丈夫だと思ってるのか?」

攻めてきたのがルレイアじゃないから。

ルレイアじゃないなら大丈夫、とでも思ったか?

話が通じるとでも思ったか?

冗談じゃない。

確かに俺は、ルレイアのような鬼神でもないし、死神でもないし、暴走機関車でもないが。

そのルレイアを守る為なら、何にだってなるぞ。

すると。

「勘違いするな。我々は、貴殿らと敵対するつもりはない」

「なら、アシミムをここに連れてこい」

「来訪の目的を聞かせてもらえないことには、主を出す訳にはいかない。今ここで、用件を話してくれ」

「…」

譲るつもりはない、ということか。

…良いだろう。

『…ルル公。撃つ?』

インカムから、アリューシャの声が聞こえた。

あくまでルシードは、俺達の目的を知るまでは、アシミムを出さないと言う。

現状では、交渉決裂だ。

ならば武力行使あるまで、とアリューシャは判断したのだろう…が。

こちらにスナイパーがいることは、ギリギリまで伏せておきたい。

今アリューシャが撃てば、ルシードは即座に狙撃手の居場所を探り、アリューシャを追うだろう。

だから、アリューシャの存在は、アシミムが出てくるまで伏せておく必要がある。

俺はアリューシャの提案を、無言を貫くことで否定した。

ルティス語で答えてやりたいところだが、ルシードはルティス語が分かるからな。

インカムで会話をすることは出来ない。

今は、その時じゃない。

…ならば。
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