The previous night of the world revolution~T.D.~
「お、弟が。サシャが、持ち出したんだ。勝手に…。あの部屋に、バールレン家の最も大事な、『白亜の塔』の開発資料が保管してある部屋に入れるのは、バールレン家の直系の子孫…私と、サシャしかいない」

「…」
 
「サシャは…わ、私への腹いせに、バールレンの家宝を…その一部を持って、何処かに逃げてしまったんだ」

…それで、今のような事態に発展したと?

「まさか、そんなことが…」

アシミムでさえ、呆然としていた。

成程。テナイの話が本当なら、アシミムは、とんだ濡れ衣を着せられていたってことになるもんな。

「…お前は、それに気づいてどうしたんだ?お前の馬鹿な弟が、そんなことをしでかしたと知って、どうしたんだ」

「も、勿論すぐに捜索を開始した…。でも、国内の何処を探しても、見つからずに…」

そりゃそうだ。

国内を探しても無駄だ。

奴は、遥か大海原を越えて、ルティス帝国に来ていたのだから。

「それで?お前は、大事な資料を弟が勝手に持ち出したことに気づいていながら、アシミムには何の報告もしていなかったのか?」

「そ、それは…」

ただでさえ青かった、テナイの顔が。

引き攣ったように固まり、真っ青になっていた。

…報告を怠っていたんだな。

「そ、そのようなことを…アシミム様に知られたら…。ゆ、由緒ある、ば、バールレン家の恥に…」

「恥になると思ったから、言わなかった。事態が大きくなっていることも、自分一人では対処出来なくなっていることにも、気づいていたのに」

俺は、テナイの右手を離した。

こんなクズの身体に、触れるのも穢らわしい。

「お前は、こんなことになったというのに誰にも言わず、黙ってコソコソと弟を探すばかりで、誰にもこの大事を伝えなかった」

「そ、それは…」

貴族の見栄や、プライドを守るという、下らない理由の為に。

「一国を揺るがすほどの大事な資料を、何処に持ち出されたかも分からないのに、野放しにしていた」

「あ、あれだけでは…無理だ。弟が持ち出した資料は、酷くだ、断片的で…。だから、なくなったあの資料だけで、『白亜の塔』を再現することは、ふ、不可能に近い」

「…」

ヒイラが、わざわざ組織の中から知識人を集めて、開発チームを起ち上げた理由が、それか。

サシャの持ってきた資料は断片的なもので、『白亜の塔』の設計図そのものではなかった。

だから、その断片的な資料をもとに、新たに研究を始めなければならなかった。

「それに、弟は元々、不勉強だったから…。『白亜の塔』の設計についても、原理についても、く、詳しくは知らない。だ、だからあいつが、異国で『白亜の塔』を造るなんて、ふ、不可能なはず…」

「…」

そうか。

サシャ・バールレンが不勉強な奴で、助かったな。

…で?

「…お前は、それが言い訳になるとでも思ってるのか?」
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