The previous night of the world revolution~T.D.~
何が起きたかって?

簡単なことだ。

俺が、拳銃の銃床で、テナイの横っ面を思いっきり殴りつけただけだ。

お前は、弟と違ってカツラはつけなくても良いようだが。

これからは、カツラに代わって、入れ歯を嵌めなければならなくなったな。

殴った方の歯が、全部砕けて吹き飛んでいた。

テナイは、あまりの痛みと衝撃で、床で悶絶していた。

アシミムは、呆然とそんなテナイを見下ろし。

ルシードは、俺を諌めることもなく、歯を食い縛るようにして、こちらもテナイを見下ろしていた。

そして、俺も。

「…良かったな、この程度で済んで」

俺は、拳銃を再びホルスターに戻した。

どれほど、引き金を引きたいと思ったことか。

俺の相棒なら、今頃お前の首は、胴体と泣き別れになっていただろうな。

「…言っておくが、あんたも無関係じゃないぞ」

アシミムの方を向いて言った。

「今日に至るまで、この馬鹿を野放しにしていた、あんたにも責任はある」

「…えぇ。分かっていますわ。これは、シェルドニア王侯貴族の問題ですわ」

分かっているなら良い。

「う、うぅ…」

情けない呻き声をあげて、テナイ・バールレンが床に這いつくばったまま、こちらを見上げた。

「何だ?」

「こ、ころさ…殺さないでくれ…」

何かと思ったら、下らない命乞いか。

聞いて損した。

「お前を殺すつもりなら、今この瞬間に殺してる。口を開くな」

「ち、違う…。弟、を…」

…何だと?

「弟を…サシャを、殺さないでやってくれ…」

…誰かと思えば、弟の命乞いか。

この期に及んで。何を馬鹿なことを。
< 654 / 820 >

この作品をシェア

pagetop