The previous night of the world revolution~T.D.~
「その弟の為に、俺達は散々な目に遭わされてるんだがな」

「そ、それは…。申し開きも出来ない…。でも、でも…あれは、世間知らずなだけで…自分のやったことが、分かってないだけなんだ…」

「そうだな。何も分かってない馬鹿なんだろうよ」

だからこそ、『白亜の塔』に関する資料がどれほど危険なものであるかも知らず。

それを無断で持ち出し、あまつさえ他国に導入しようとしたのだ。

世間知らずを通り越して、ただの馬鹿だ。

自分が馬鹿であるという自覚のない、本物の馬鹿だ。

救いようがない。

それなのに、この男はそんな救いようのない馬鹿を、助けろと言う。

「弟の…しでかしたことは、私の…監督不行き届きのせいで…。だから…弟は殺さないで欲しい…」

「…」

「あんな弟でも…私にとっては唯一の肉親で…。だから…お願いします…」

テナイ・バールレンは、口元からボタボタと血を流しながら、それでも床の上に手をつき。

頭を床に擦りつけて、所謂土下座をして頼んできた。

馬鹿な弟の命を、救ってやってくれと。

殺さないでやってくれと。

…そこまでして。

「…土下座までしてもらったところ、悪いが」

俺は、冷たくそう言い放った。

「馬鹿は、死ぬまで直らない。あんたの弟が、何処まで泥沼に足を突っ込んでるのかは知らないが…。生かして返すには、もう遅いかもしれないな」

「…」

「お前の弟がどうなろうと、俺の知ったことじゃない」

話は、これで終わりだ。

これ以上は、時間の浪費と言うもの。

「撤収するぞ、アリューシャ。こんな国、一秒でも長居したくない」

『…りょ』

俺と、若干ここからは離れた場所に位置するアリューシャは、土下座するテナイを放置したまま。

バールレン邸を後にした。
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