The previous night of the world revolution~T.D.~
その日はもう遅くなっていたので、アシミムはもう一晩、シェルドニア王国に泊まっていくよう勧めてきたが。

用を済ませた今、これ以上この国にいる理由はない。

さっさと撤収する。

こうしている今も、ルティス帝国では、ルレイア達が危険を犯しながら戦っているのだ。

悠長にしている暇はない。

それに、これ以上シェルドニア王国に滞在したくはなかった。

理由など、言わずもがなだろう。

それでも。

アシミムの代わりのつもりか、アシミムの、せめてもの儀礼のつもりなのか。

ルシードが、空港まで見送りに来た。

そしてそのとき、初めてアリューシャが、ルシードと対面した。

「…貴殿か。『青薔薇連合会』の狙撃手は…」

と、ルシードがシェルドニア語で呟いたものだから。

「あぁん!?何だこいつ!アリューシャに喧嘩売ってんのか!?」

アリューシャは、自分が愚弄されていると勘違い。

「…喧嘩は売ってない。見事な腕前だった」

「何だとこら!ちゃんとママチャリは返しに行ったんだからな!文句言われる筋合いはねぇぞ!」

話が噛み合ってない。

ルシードは褒めてるのに。しかも、アリューシャに分かるよう、ちゃんとルティス語で。

それなのに、ルシードのルティス語が若干訛り気味なのと。

アリューシャが、ルシードを完全に敵認定しているせいで、アリューシャ自身がまともに話を聞く気がない。

アリューシャ…あのママチャリ、ちゃんと返しに行ったのか。

偉いな。

「悪いが、うちの狙撃手は、シェルドニア語が分からないんだ」

「そうか」

「お前なんぞなぁ、アリューシャの手にかかれば、人差し指一本でバキューンよ!どうだ恐れおののいたか!跪けアリューシャに!」

「…」

ルティス語で捲し立てるアリューシャを、無言で見つめるルシードであった。

やめろ、馬鹿アリューシャ。

恥を晒すんじゃない。

きっとルシードは今、「俺は、こんな狙撃手に怯えていたのか…」と思ってるだろうな。

そうだよ。

「今回は見逃してやるがなぁ!次アリューシャのスコープに入ったら、そのときが最後よ!分かったかこら!貴様の主人にもよく言っとけ!」

「はいはい、そういう挑発は、すればするほど弱く見えるからやめろ」

「…次など起きないよう、こちらも充分警戒する」

「当たり前だ」

今回こんなことが起きた時点で、俺達としては、ぶん殴るくらいじゃ済まないほどに、損害を被っているのに。

次などあって堪るか。

「元はと言えば、これはシェルドニア王国の不始末。貴殿らに尻拭いをさせてしまい、申し訳なく思っている」

「それは殊勝なことだな」

口先だけなら、何とでも言える。

何とでも言ってろ。

「お前達にどう責任を取ってもらうかは、帰国してからたっぷり考えておくよ。精々、首を括る覚悟でもしておくんだな」

「…」

ルシードは、言い返す言葉もないとばかりに目を伏せた。

…ふん。

「帰るぞ、アリューシャ。ルティス帝国に」

「おうよ!おととい来やがればーか!」

だから、弱く見えるからやめろって。
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