The previous night of the world revolution~T.D.~
ルティス帝国にいるアイズレンシアに、任務を終えて帰国する旨を連絡し。

帰りの飛行機の中にて。

「…つーか、今更だけどさー」

アリューシャが、頬杖をついて言った。

「何だ?」

「あいつ、見逃して良かったのかよ?あの…ハゲてない兄貴の方」

…テナイ・バールレンのことか。

「あいつが、その開発資料とやらをちゃんと守ってなかった…ってか、資料がなくなったことを、ずっと隠してたせいで、ここまで大事になってるんだろ?」

「そうだよ」

アリューシャにしては、やけに物分かりが良いじゃないか。

お前、実は本当は、分かろうと思えば分かるんだろ。

「そりゃ、一番悪いのは、その自称博士の若ハゲだけども。あの兄貴も相当やらかしてね?」

「そうだな。やらかしてるな」

あいつが、もっと早く、『白亜の塔』の開発資料の紛失に気づいていれば。

気づいた上で、恥を忍んでアシミムに報告していれば。

アシミム達シェルドニア貴族は、総力を上げてサシャ・バールレンの居場所を捜索していたはずだ。

そうしたら、サシャとヒイラが出会う前に。

『光の灯台』開発計画が持ち上がる前に、事態を収拾出来ていたかもしれない。

あの男は、貴族の面子やプライドの為に、未然に防げたかもしれない事故を、みすみす現実のものにしてしまったのだ。

大罪人だ。

ルレイアなら、躊躇わずに首を刈っていただろうな。

「よっぽど、あいつの脳天ぶち抜いてやろうかと思った。ルル公が止めるから、撃たなかったけどさ」

と、不満げなアリューシャ。

その気持ちは、よく分かる。

俺だって、損得勘定抜きにして、感情のままに動いて良いのなら。

今頃、シェルドニア王国では、テナイの葬式が行われていただろうよ。

でも。

「俺は、テナイに情をかけた訳じゃない。シェルドニア王国に、貸しを作ってやったんだよ」

「…菓子?」

「違う。貸しだ、貸し。貸し借りの貸し」

勝手に、自分の好きなものに変換するんじゃない。

「俺があの場でテナイを殺して、ルティス帝国にいるサシャも殺したら、どうなると思う?」
 
「兄弟仲良く地獄行き」

「だろうな」

せめて地獄では、兄弟喧嘩はやめろよ。

って、そうじゃなくて。
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