The previous night of the world revolution~T.D.~
「殺さない方が、貸しになる。ルシードが言っていただろ?シェルドニア王国の不始末を、ルティス人の俺達に尻拭いさせることになるって」

「うん」

「王侯貴族が、しかもシェルドニア王国にとって一番の重要機密である『白亜の塔』に関するやり取り。これはもう、国と国との問題だ」

シェルドニア王国にとっては、死活問題だろう。

命綱を握られているようなものだ。

その命綱を、断ち切るのは簡単。

でも、もしその命綱を断ち切らずに、ご丁寧に返してあげたら?

「ほら、お前達の火の不始末、ちゃんと俺達が消しといてやったよ」と言ったら?

「俺達がシェルドニアの問題を、代わりに解決してやったら…。シェルドニアは今後、俺達に頭が上がらないだろう?」

「…!」

「貸しを作っておけば、いつか返してもらえる。この間…ルティス帝国の景気回復に、シェルドニアが一役買ってくれたようにな」

不平等貿易条約を結ばせた、あの一件で。

先王ミレドの暗殺事件のときの貸しは、チャラになった。

アシミムとしては、これでようやく、ルティス帝国と貸し借りなしの、対等な関係に戻れたと思ったのに。

今回、こんな事件が起きた。

俺達が感情のままに、バールレン兄弟を虐殺したとしたら、シェルドニア王国は、形はどうあれ、自国の有力貴族を殺されたことになる。

まぁ、悪いのはバールレン兄弟なのだが。

それでも、自国の有力貴族を殺されたとなれば、両国の間に亀裂が入る。

ましてや。

事を起こした、当事者であるサシャはともかく。

兄であるテナイは、報告を怠っていたこと以外、大して非はない。

そしてその非を咎められるのは、彼の上司であるアシミムだけ。

俺達異国人の介入するところではない。

だから、テナイを殺すのは、やり過ぎ。

彼を断罪するのは、あくまでシェルドニア王国でなくてはならない。

そう判断したから、片頬総入れ歯だけで許してやったのだ。

これでも、相当我慢したんだからな。

でも、我慢した甲斐はある。

「これでまた、シェルドニア王国はしばらく、ルティス帝国に借りがある状態が続く訳だ。しかるべきときにルティス帝国が一言言えば、シェルドニア王国は逆らえない」

「ほぇー…。ルル公、おめー考えたな」

…感心してくれて嬉しいんだけどな、アリューシャ。

実は。

「…いや、実は、考えたのは俺じゃない」

「は?」

「このシナリオを考えたのは、お前の相棒…アイズだ」

「…ルル公じゃないんかいっ!」

アリューシャのツッコミが突き刺さる。
 
その通り。

一連の計画を考案したのは、今ここにいる俺じゃない。

ルティス帝国で俺達の帰りを待っている、俺達を送り出した張本人。

アイズレンシア・ルーレヴァンツァなのである。
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