The previous night of the world revolution~T.D.~
彼女は、先のミレド暗殺事件において、随分ルレイアにお灸を据えられたらしいから。

少なくとも、ルレイアが『青薔薇連合会』にいる限り、ルティス帝国に手出しすることはないだろう。

ルティス帝国に手出しすれば、何が待っているか、彼女はよく知っている。

だから、アシミムは違うと思っていた。

違うとは思っていたけど、それでも容疑者の一人であることには変わりないし。

一旦アシミムを巻き込んでしまえば、彼女も知らん顔は出来なくなる。

つまり、『青薔薇連合会』に協力し、共に犯人探しに付き合うしかなくなるのだ。

ルルシー達がいくら、「バールレン家の当主に会わせろ」と要求したところで。

異国のマフィアの要求など、バールレン家が鼻で笑うことは、目に見えていた。

だから、先に女王であるアシミムを巻き込んだ。

彼女を巻き込めば、バールレン家も、ルルシー達を撥ね付ける訳にはいかなくなる。

何せ、女王のお客人なのだから、迎え入れない訳にはいかない。

その成果もあって、ルルシー達は、すぐにバールレン家の当主に面会することが出来た。

おまけに、私達が喉から手が出るほど欲しくて堪らなかった、情報を入手することが出来た。

これで、『帝国の光』が所有する『光の灯台』に関する謎が、また一つ紐解けた。

今『帝国の光』にいるのは、比較的賢い兄のテナイ・バールレンではない。

馬鹿で、愚かで、短絡的で、反抗期を拗らせた、弟のサシャ・バールレンだ。

彼には、野心がない。

ただ、ちょっとした反抗心があるだけだ。

小言ばかり言う兄に嫌気が差し、兄を困らせるつもりで、家宝を持ち出した反抗期の家出者。

本人には、大した知識もなければ、ルティス帝国を支配しようという野心もない。

それどころか、自分が何をしているのか、自分が何に加担しているのかさえ、分かっていない。

それが、サシャ・バールレンの正体だ。

自分の国にある大事なものを、ルティス帝国の人間に見せびらかしたい。

そして、称賛を受けたい。

彼の考えていることは、精々それくらいだ。

子供の心理だ。

おまけに、不勉強だったせいで、『白亜の塔』を設計するのに必要な、最低限の開発資料さえ分からなかった。

何故『光の灯台』の開発資料を持ってきたのに、それが断片的なものに過ぎないのか、ずっと不思議だったのだ。

設計図を持ってくるなら、まるごと持って来れば良いのに。

何故、中途半端な部分しか持ってこなかったのか。

何のことはない。

馬鹿なサシャは、自分でも資料の見分けがつかなかったのだ。

それどころか、資料の解読も覚束ないのだ。

だから、自分の屋敷に保管されていた資料の中から、適当に目についたものだけを、スーツケースに突っ込み。

そのまま、勢いに任せてルティス帝国行きの飛行機に乗った。

全ては、愚かなサシャ・バールレンの独断専行に過ぎなかったのだ。

別に、国同士の争いを目論んでいる訳ではない。

おまけに黒幕は、単なる反抗期の自称博士でしかない。

この度のルルシー達の遠征のお陰で、こんなに重要なことが分かったのだ。

安堵し、喜ばずにいられるだろうか?
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