The previous night of the world revolution~T.D.~
ともあれ。

「俺達も、研究を本格的に始めてから分かった。思っていた以上に、これは難しい研究なんだ。とても短期間で出来る研究じゃない」

「…」

「チームのメンバーが悪いんじゃない。皆優秀な逸材の集まりだ。それでも、どうしても研究には時間がかかる。研究の秘密を守る為に、少数精鋭にしているせいでもあるが…」

嘘である。

あの開発チームの中で、まともに研究の役に立てそうなのは、俺を除けばルレイア先輩だけだ。

あとは、そこらの一般人を捕まえてきたに過ぎない。

唯一役に立ちそうなルレイア先輩だって、研究職の経験はないし、『白亜の塔』に関する知識は、ほとんど持っていない。

精々、『白亜の塔』に洗脳された「実体験」を持っている程度。

そもそも、異国の技術だからな。

俺だって、『白亜の塔』に関する知識なんて、ほとんどないぞ。

その造形と効果は分かってるが、造り方なんてさっぱり。

誰だってそうだろう?

皆ティッシュペーパーの存在は知ってるし、使い方も知ってるが。

じゃあお前、今からティッシュペーパー作ってくれ、と数人の一般人と一緒に、研究室に放り込まれても。

途方に暮れるしかないだろう。

いや、奇跡的に、メンバーの中にティッシュペーパー職人がいたら、何とかワンチャンあるかもしれないが。

まずそんな奇跡は起こらない。

しかも、大抵万国共通のティッシュペーパーと違って。

『光の灯台』…『白亜の塔』の技術は、シェルドニア王国固有のもの。

このルティス帝国で、その技術と知識を持っている方がおかしい。

あるのは、サシャ・バールレンが持ってきた、非常に断片的な開発資料だけ。

これだけで、どうやって『白亜の塔』の再現物を作れと言うのだ。

あらゆる分野に長けている、優秀な研究者を各地から集め、潤沢な資金と設備を整え。

数十年単位で時間をかけて、ようやく完成するかしないか、というレベルだ。

つまり、俺が何を言いたいかって言うと。

『帝国の光』の開発チームでは、到底『光の灯台』なんて造れない、ってことだ。

…千年単位で考えたら、何とか可能性があるかもしれないが。

その前に、チームメンバーが死んでる。

ましてや、二ヶ月程度で完成なんて、とてもではないが不可能。

それでも、万に一つの可能性があってはいけないから、俺もルレイア先輩も、わざと時間稼ぎをしているが。

本当は、時間稼ぎなどしなくても、『光の灯台』は完成しない。

少なくとも、ヒイラが生きてるうちは無理だろうな。

シェルドニア王国から、テナイのような本物の知識人を、引き抜いてこない限りは。

すると。

「…じゃあ、いつになったら出来るんだ?」

ヒイラは、低い声でそう聞いた。

それ、昼間にも聞いたな。

あのとき自称博士は、あと少し…とか言って、言葉を濁していたが。

チラリ、と自称博士を見る。

相変わらずおろおろするばかりで、何も答えようとしない。

そこに突っ立って、おろおろしてるだけで良いんだから羨ましい。

いっそいなくても結構なので、俺の靴の踵スタンガンで気絶させたくなってきた。

「…今の段階では、何とも言えない」

仕方がないので、俺は正直に答えた。
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