The previous night of the world revolution~T.D.~
「何ですか」

「…あ、いえ…。やっぱり…何でもないです」

何でもないですって言う奴の、およそ八割は、何かある奴だからな。

これ、人生の教訓だから覚えとけ。

「何ですか気持ち悪い。言ってくださいよ」

「で、でも…」

「敵同士とはいえ、今は一時的でも同じ屋根の下、一緒にスパイやってる仲なんですから、ある程度腹を割るくらいじゃないと、ストレス溜まりますよ」

俺は、非常に温厚で平和主義な大人だからな。

気に食わないこと言われたからって、すぐキレたりしないよ。

「…えっと。何て言うか…。ちょっと、俺のことも一応心配してくれてるんだな、と思って…」

「…心配?」

「あ…いや、やっぱり忘れてください」

今しがた言われたことを、そんな簡単に忘れる訳ないだろ。

心配…心配か。

してるのか?俺。ルーシッドのことなんて。

…心配してるって言うか…。

もしもルーシッドが、『ルティス帝国を考える会』でたった一人の異端者としてハブられ、孤立し、果ては陰口まで叩かれるようになったなら…。

それを見たらきっと、俺は思い出したくないことを思い出す。

そうしたらきっと…不愉快という言葉では言い表せない、負の感情を抱くことになるだろう。

無意識にそう思ったから、ルーシッドを労るような言葉が出てきたのだ。

「…別に心配なんてしちゃいませんが、ヘマだけはしないよう気をつけてくださいよ」

「は、はい」

ルルシー。あなたの言ったことは、多分正しい。

俺の中では、例え10年以上のときが経とうとも。

未だに心の隅っこで、あの学校でルシファーだったときのことを、引き摺っているのだ。

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