The previous night of the world revolution~T.D.~
そもそも、ヒイラ・ディートハットを逮捕し、裁判にかけたところで、それほど大きな罪にはならないのだ。

勿論、武器を所有していたという事実、党員を監視したり、拷問にかけたりしていた点は、法律に引っ掛かる。

国家反逆罪で問い詰めることも、出来ない訳ではないが。

しかし、決定的なことはしていない。

ルチカのように、自分を信じる信者ごと自爆しようとした訳でもなし。

彼のしたことは、あくまで政治活動の一環。

『帝国の光』を作ったことも、その為に金を巻き上げたことも…悪質ではあるが、罪としては、それほど重いものではない。

それに、ヒイラを裁くに当たって、俺達は『白亜の塔』に関する情報を、一切明らかにしてはいけないのだ。

『白亜の塔』に関しては、ヒイラを裁くことは出来ない。

本来『白亜の塔』などという代物は、ルティス帝国には存在しないからだ。

存在しないはずのものを、違法に作ったからといって、それを裁くことは不可能。

『白亜の塔』の存在を、世間に晒す訳にはいかない。

となると、諸々重箱の隅をつついて、叩けるところを徹底的に叩いたとしても…。

総合的に見ると、ヒイラの罪は、そんなに重くない。

精々、長くても数十年、牢屋に入っていれば良い。

それに、ヒイラには仲間がいる。

既に、熱が冷めた『帝国の光』の提携組織は、かなり弱体化しているものの。

各地には、まだヒイラにお熱の、狂信的な共産主義者がいる。

大体、共産主義者自体は、元々ルティス帝国に一定数存在していた。

地方で、細々と活動していたから、あまり表に出てくることがなかっただけで。

しかし、ヒイラという熱狂的な指導者のお陰で、今まで抑えることが出来ていた連中の熱に、火がついた。

例え檻の中にいようと、ヒイラがこの世に存在している限り。

彼らはヒイラを指導者と称えるだろうし、ヒイラを即時解放するよう、訴え続けるだろう。

そうなれば、どうしてもヒイラの刑期は短くなってしまう。

そして、ヒイラが無事刑期を終えて、出所したらどうなるか。

もう、火を見るより明らかだな。

『帝国の光』、再活動だ。

いくら帝国騎士団が見張っていても、彼らは水面下で活動を再開し。

帝国騎士団や、『青薔薇連合会』に対する復讐とばかりに、今度はもっと過激な組織になる。

ヒイラは勿論、『白亜の塔』の存在も知っている訳だから。

今度は万全な準備をして、今度こそルティス帝国に革命を引き起こす。

ルティス帝国を、シェルドニア王国と同じ、洗脳国家にするつもりだ。

そして自分は、その洗脳国家の頂点に立つ。

ヒイラが、檻の中でこの考えを改め、改心してくれれば良いのだが。

…まぁ、そんな楽観的思想は、持たない方が賢明だな。
< 715 / 820 >

この作品をシェア

pagetop