The previous night of the world revolution~T.D.~
『ヒイラ・ディートハットは殺すべきだ。生かしておいても、脅威にしかならない』

「…」

アイズレンシア・ルーレヴァンツァは、きっぱりとそう言った。

…ルティス帝国の法律で、奴を監視下に置くことは出来ない。

『ヒイラを野放しにしておけば、今度は未遂では済まない。今度こそ、『光の灯台』を…『白亜の塔』の再現物を造る。彼には、その野心がある』

「…」

『ルチカ・ブランシェットとは比べ物にならないほどの脅威だ。ヒイラを解放した途端、気がついたときには、全ルティス帝国民が、洗脳下に置かれていてもおかしくない』

…その通りだ。

言い返す言葉もない。

『それでも帝国騎士団は、ヒイラを法のもとに裁くことをご所望で?』

「…ずっと思ってたんだが」

黙ってアイズレンシアの言葉を聞いていたオルタンスが、ようやく口を開いた。

『何か?』

「お前、本当はもう、どうするのか決めてるんだろう?」

…!

そんな、さらっと。

近所のスーパーに、お使い頼むみたいなノリで。

「言わせたいのか?俺に」

『それはもう。後で、「この殺人犯」と言われて、『青薔薇連合会』を殺人罪に問う口実にされては、堪らないからね』

…こ、の…男。

本当に…抜け目のない…。

「心配することはない。好きにやってくれ。『青薔薇連合会』に主導権を渡すと決めたときから、覚悟はしている」

『それでも、命じてもらわないと困るね。好きにすれば、なんて曖昧な言葉で、有耶無耶にされちゃ敵わない』

「分かった」

すぅ、とオルタンスは息を吸った。

そして。

「ヒイラ・ディートハットは『青薔薇連合会』が殺してくれ」

オルタンスは、きっぱりとそう言った。

…これをオルタンスに言わせる為に、奴は。

「上手くシナリオを作ってもらいたい。投降を呼びかけたが、ヒイラがそれを拒否。銃撃戦になり、やむ無く殺してしまった…そんな都合の良いシナリオを所望する」

こんなことを、淡々と言えるオルタンスもオルタンスだ。

さすが、王室の大義の為に、ルレイア…ルシファーを切り捨てただけのことはある。

貫禄が違うな。

まさか、今こいつの目の前に、ルトリアの痛バッグがあるとは、誰も思わないだろう。

『心配ないよ。それはこちらで、既に考えてある』

そして、アイズレンシアの方も抜け目ない。

既に、シナリオは用意済み。

あとは、命令執行書が欲しかっただけ。

『それじゃ、もう用はない。あとは明日になれば、全て終わってるよ』

「分かった。そのように事を進めよう」

オルタンスがそう答えると、アイズレンシアは一方的に通話を切った。

指令書にサインさえもらえれば、それで良いとばかりに。
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