The previous night of the world revolution~T.D.~
…ところで。

ルーシッドが王制賛成派を演じるということは。

対する俺は、王制反対派を演じるということになる。

ひいては、『ルティス帝国を考える会』の方針に従い、共産主義者になる必要がある。 

少なくとも、口先だけは共産主義的意見を口にし続けなければならない訳だ。

それは納得しているし、そういう役割だと理解している。

で、俺の本心はどうなのか、という点だが。

実を言うと俺は、本心はルーシッドと同じ考えなのだ。

つまり、王制賛成派の資本主義者って訳。 

帝国騎士団の存在も容認している。

意外に思ったか?

勿論、これは客観的に見たときの感想だ。

俺は確かに帝国騎士団なんか嫌いだし、女王…と言うか、ローゼリアなんか、糞食らえと思ってるが。

それは、俺にそう思わせるだけのことを奴らがしたから。

つまり、俺の個人的な感情の問題だ。

帝国騎士団と、元女王ローゼリアを巡る、あの忌々しい事件さえなければ。

俺は帝国騎士団にも女王にも、憎しみを抱いたりはしなかった。

あくまで、俺は個人的な理由から、奴らを嫌悪しているだけで。

個人的な私怨を抜きにして考えれば、俺は王制も貴族制も、帝国騎士団の存在も、ルティス帝国には必要だと思っている。

まぁ、貴族として生まれ、洗脳じみた帝王学を叩き込まれたから、その影響が残ってるだけなのかもしれないが。

それに、俺は衣食住に困ったことがないから、余計に。

だが、それらを差し引いたとしても、やはりこの国の現体制は、間違っていないと思う。

何故か?

理由は単純だ。

実際、ルティス帝国が建国されてから、今日に至るまで。

この制度でやってきて、ルティス帝国は現在、世界から先進国として認定されている。

あの洗脳国家シェルドニアにも引けを取らない、大国として名を馳せている。

その実績がある。

俺達が今こうして、ルティス帝国で生きているのが、その証だ。

確かに、未だにルティス帝国には、貧民街と呼ばれる場所はある。

帝都は華やかなものだが、地方では、アイズやアリューシャが育ったような、貧困の巣窟もある。

確かに、そういう場所で育った人々にとっては、女王なんて、貴族共なんて糞食らえ、と思ってるかもしれないが。

それでも、ルティス帝国の大部分の人間は、現制度である程度安定した生活を送っている。

ルティス帝国の土地と人口を考えれば、これだけの人間を飢えさせずに生かし、先進国として維持している事実は、認めざるを得ないだろう。

そして、そんなルティス帝国の現在の基盤を作ったのは。

他ならぬ、『考える会』の連中が嫌悪している、王制とそれを取り巻く貴族達、そして帝国騎士団だ。

彼らが、この国を守ってきた。守り、育て、今に至るまで他国に占領されることなく、ルティス帝国という国を維持している。

一つの国を、それも、これほどの大国を守り、維持していくことに、一体どれだけの労力が必要だと思う?

俺もまた、それらの惜しみない「労力」によって淘汰された人間の一人だ。

説得力が違うだろう?

オルタンスが俺にしたことは、今でも許せない。決して。

生涯何があったとしても、俺はあいつを許さないし、帝国騎士団も、ローゼリア元女王のことも許さない。

だが。

その一方で、オルタンスが何も、俺を憎んでいたからあんなことをしたのではない、ということは、理解している。
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