The previous night of the world revolution~T.D.~
彼が何者なのか、どういう素性で、何故俺のもとに来たのか。
 
その仔細はどうでも良い。

大事なのは、彼が持ってきた資料だ。

聞けばその断片的な資料は、人々をじわじわと洗脳し、煽動し、使用者の思うままに精神を侵食する装置の、設計図なのだとか。

嘘のような、本当の話だ。

俺はこの話に、堪らなく魅了された。

これだ、と思った。

ルチカ教祖が説いた、言葉や信仰心などといった薄っぺらいものではない。

俺が当初使おうとしていた、あの安っぽくて、流血を伴う武器でもない。

誰一人犠牲を出すこともなく、面倒な手順を踏む必要もなく。

これを完成させて、使用すれば、勝手にルティス帝国は、俺の理想通りの国になる。

俺はサシャ・バールレン博士を、『帝国の光』に歓迎した。

そして、すぐにこの…『光の灯台』の研究を始めさせた。

そう、『光の灯台』だ。

これはルティス帝国を、明るく照らす光になる。

人々を洗脳することに、抵抗はないのか?

革命を望まない人々の意識を、勝手に操作することへの罪の意識はないのか?

きっと、そう聞かれるだろう。

はっきりと言わせてもらおう。

抵抗はないし、罪の意識もない。

俺には、『光の灯台』を使うことに対する躊躇は、全くない。

だって、これは長年、間違った国政によって「洗脳」されてきた俺達にとって、当然の反逆であり、復讐だからだ。

先に「洗脳」してきたのは、国の方じゃないか。

だったら俺達が洗脳し返しても、何の罪にもならない。

何より、この方法を使えば、誰も血を流すことはない。

苦しい思いをすることもないし、最も平和的なやり方で、最善の国作りが可能だ。

これ以上の方法はない。

サシャ博士の持ってきた資料は、とても断片的で、秘密裏に研究するのは大変だった。

開発するには、時間がかかるだろうと思っていた。

開発チームの人数を増やせば、それだけ密告の可能性が増える。

だから、チームメンバーの数は出来るだけ絞って、帝国騎士団に見つからないよう、秘密裏に研究を進めた。

一方で、それでも抵抗するかもしれない者がいないとも分からないので、武器庫も充実させた。

これには、本当に金がかかった。

何せ俺達には、まともに武器を仕入れるルートがないのだから。

まさに、手探り状態だ。

でも俺は当初、そんなに焦ってはいなかった。

『表党』がほとんどとはいえ、『帝国の光』は着実に、確実に大きくなっていた。

組織が大きくなるにつれ、集まる人も金も増えた。

俺は無償の労働力を買い、惜しみなく集めた金を使って、武器の購入と『光の灯台』開発費に回した。

例え時間がかかっても、確実に俺は、革命に向けて前に進んでいた。

しかし。

段々と、俺の思い通りにならないことが起き始めてきた。
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