従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
 結局最後はそこへ辿り着くしかなくて、グレイスはため息をついて、窓から離れた。ソファに座る。
 趣味の刺繍もする気になれなかった。むしろ道具も作ったものも、全部捨ててしまいたいくらいだったのだ。
 勿論、刺繍を教えてくれたのがフレンだからだ。刺繍には彼との想い出が詰まっているから。
 だから刺繍など今、手を出してしまったら胸が痛むばかりなのだ。そんな、余計に自分を傷つけるようなこと、できない。
 ぼうっとソファに腰掛けているしかなかったとき、こんこん、と扉が音を立てた。
 リリスか誰かが来たのかしら。お茶でも淹れてくれたのかもしれないわ。
 思って、グレイスは「はい」と答えた。そして、聞こえてきた声にちょっと驚きを覚えた。
「私よ、グレイス」
 聞こえてきたのは祖母のもの。祖母のレイアだ。
「おばあさま!?」
 グレイスは急いでソファを立った。扉へ向かう。
 開けると確かにレイアが立っている。常にしているように、白髪になった長い髪をまとめて、綺麗にメイクをした、歳を重ねたからこその美しい姿で。
「おばあさま……どうして……」
 一体、どうして今、レイアがいるのかわからない。今は少し離れた屋敷で暮らしているのだから。よく遊びに行ったものだけど、ここしばらくは少々忙しく、また色々あったために、時間が空いてしまっていた。
 レイアはグレイスの「どうして」にすぐには答えなかった。代わりに手を伸ばしてきた。
 グレイスの目元に触れる。たくさん、たくさん泣いて、まだ少し腫れが残っている目元。メイクをしていても隠しきれていないだろう。
 そこに触れて、優しく撫でられた。
「腫れてしまっているわね」
 グレイスはぎくりとした。
 レイアには伝わってしまっているのだ。
 なにが起こったのかを。グレイスがこうなっている理由を。
 当たり前のことかもしれないけれど、情けない、と思う。
 けれど胸が痛む前に、ふわっと。レイアの手がグレイスの腕に触れた。そのまま軽く引き寄せられる。
「大変なことがあったのでしょう」
 祖母に抱かれるのはいつぶりだろうか。覚えている限りでは、数年前。まだ少女そのものだった頃。
 そのときの感覚が思い出された。腕に抱かれればどんなに安心できたかということを。
 今も同じだった。
 ぶわっと。
 グレイスの胸に感情が溢れた。熱くて痛いそれは、グレイスの胸からあふれ出してしまう。
「おばあさま……!」
 意識しないうちに、グレイスは踏み出してレイアに抱きついていた。しばらく出なかった涙が、勢いよく出てくる。
 しがみついて泣き出したグレイスの背中をレイアは抱いてくれる。優しくさすられた。
「大丈夫よ。グレイス、お部屋に入りましょう」
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