従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
「……申し訳、ございません」
 ダージルの言葉はすべて正論であった。グレイスは視線を落として、謝罪の言葉を述べる。
 これからどうなろうとも、グレイスに拒否権はない。婚約解消と言われようとも、このまま嫁げと言われようとも。
 それはレイアによってなにか介入があるのかもしれないが、とりあえず、ダージルから要されたことならグレイスに嫌ですなどと言える権限はないのである。
 だからグレイスはなにを言われても受け入れるつもりであった。
「……少し考えさせてくれ。私も、そういう女性とこれから共にいることについて考えねばならないから」
 ダージルの言ったことは『保留』であった。グレイスを赦してくれるものでも、逆に赦しはしないというものでもない。
 ある意味、グレイスにとっては生殺し状態であり、こちらの状況のほうが苦しいもの。
 けれど、ダージルとてグレイスの状況や心情を把握したのはこれが初めてなのだ。すぐにどちらかに決めろというのも酷な話である。
「かしこまりました」
 グレイスはただ、そう言った。
 それで、この日の訪問は済んでしまった。お茶や休憩もすることはなかった。そんな悠長なことをしていられる場合なものか。
 グレイスを引き受けに執事長が待機室からやってきて、慇懃に礼をした。
「この度は大変に失礼を致しました。領主様に代わりましてお詫び申し上げます」
「ああ。また連絡する」
 ダージルの返事はやはり素っ気なかった。今までなら使用人にもそれなりの優しさをもって接するようなひとなのに。
 私は、このひとのことを傷つけてしまったのだわ。
 グレイスはそれを肌で感じた。
 それは初めて考えることではなかったが、少なくともやっと実感したというところまで認識が届いたといっていい。
 今まで自分の辛さに閉じこもるばかりで、ダージルの気持ちなど考える余裕がなかった。
 胸が痛む。
 想ってはいない。
 結婚もしたいとは思わない。
 これから想うこともきっと、できない。
 けれど。
 ……ダージルのしてくれた、いくつものこと。そのすべてが嫌だったなんてことはないのだ。
 それを裏切ったことは、確かに抱えていかなければいけないのだった。
< 130 / 155 >

この作品をシェア

pagetop