従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
襲撃
今日は憂鬱な日。それもだいぶ憂鬱な日、である。
ダージルの屋敷に再度招かれていたのだ。
今回は父も一緒に、である。
ダージルからの文が父の元に来てそれを聞かされたとき、グレイスは理解した。
婚約について。続けるにしても、破棄されるにしても、どちらかに決まるのだろうと。
今日も執事長と一緒に馬車に揺られながら、グレイスは自分の手を見ていた。そこにはダージルからもらった婚約指輪が嵌っている。
けれどこれがいつまで嵌っているかどうかはもうわからないのだった。今日、返せと言われてしまうかもしれないもの。
グレイスとしてはどちらでも良かった、けれど。
本音を言えば、婚約など破棄されてしまったほうがいいに決まっている。
想い人のフレンしかもう愛せないと思い知ってしまったのだし、それに祖母のレイアも認めてくれた。どうにもならない状況ではない。
けれど。
ダージルのオーランジュ家のほうが身分が上なのは変わりやしないのだ。向こうから『婚約の解除は許さない』と言われてしまえば、反論などはできない。
そこはなにか、レイアによって変わるのかもしれないのだけど、不確かなことには今のところ縋れないのだった。
だからどちらでも良かった。
このまま婚約状態が続くにしても、もうグレイスの心は決まっている。心が決まってしまっただけ、結婚に対しても覚悟ができたといえるだろう。
完全に政略結婚の形になる覚悟、である。
それで、ダージルも婚約を破棄しないというのなら、その、形だけの夫婦で良いと。そういうつもりなのであろうし。
かたかたと馬車は僅かな振動だけで順調に走っていく。
窓の外から見える景色は穏やかだった。冬も近いが、小春日和でぽかぽかした日。
オーランジュ領へ入るには、山をひとつ越える必要があるのだが、その山も起伏が少なく、道もそう荒れていないところだった。オーランジュ領は平和で豊かなのでそのためだ。
よって、山の中へ入っても、振動は少し強くなっただけであまり変わらなかったのだけど。
「うわぁっ!!」
唐突に外から声がした。男の、それも知っている人間の声である。
家の使用人の一人、御者を務めている男だ。
「なんだ、貴様たちは!」
もうひとつ、声が聞こえた。こちらは護衛についていた警備の男。
グレイスは一瞬、なにが起こったのかよくわからなかった。
けれどすぐに息を呑むことになる。外から一気に嫌な空気が漂ってきたのだから。
なにか、悪いことが起こったのは明白だった。
ダージルの屋敷に再度招かれていたのだ。
今回は父も一緒に、である。
ダージルからの文が父の元に来てそれを聞かされたとき、グレイスは理解した。
婚約について。続けるにしても、破棄されるにしても、どちらかに決まるのだろうと。
今日も執事長と一緒に馬車に揺られながら、グレイスは自分の手を見ていた。そこにはダージルからもらった婚約指輪が嵌っている。
けれどこれがいつまで嵌っているかどうかはもうわからないのだった。今日、返せと言われてしまうかもしれないもの。
グレイスとしてはどちらでも良かった、けれど。
本音を言えば、婚約など破棄されてしまったほうがいいに決まっている。
想い人のフレンしかもう愛せないと思い知ってしまったのだし、それに祖母のレイアも認めてくれた。どうにもならない状況ではない。
けれど。
ダージルのオーランジュ家のほうが身分が上なのは変わりやしないのだ。向こうから『婚約の解除は許さない』と言われてしまえば、反論などはできない。
そこはなにか、レイアによって変わるのかもしれないのだけど、不確かなことには今のところ縋れないのだった。
だからどちらでも良かった。
このまま婚約状態が続くにしても、もうグレイスの心は決まっている。心が決まってしまっただけ、結婚に対しても覚悟ができたといえるだろう。
完全に政略結婚の形になる覚悟、である。
それで、ダージルも婚約を破棄しないというのなら、その、形だけの夫婦で良いと。そういうつもりなのであろうし。
かたかたと馬車は僅かな振動だけで順調に走っていく。
窓の外から見える景色は穏やかだった。冬も近いが、小春日和でぽかぽかした日。
オーランジュ領へ入るには、山をひとつ越える必要があるのだが、その山も起伏が少なく、道もそう荒れていないところだった。オーランジュ領は平和で豊かなのでそのためだ。
よって、山の中へ入っても、振動は少し強くなっただけであまり変わらなかったのだけど。
「うわぁっ!!」
唐突に外から声がした。男の、それも知っている人間の声である。
家の使用人の一人、御者を務めている男だ。
「なんだ、貴様たちは!」
もうひとつ、声が聞こえた。こちらは護衛についていた警備の男。
グレイスは一瞬、なにが起こったのかよくわからなかった。
けれどすぐに息を呑むことになる。外から一気に嫌な空気が漂ってきたのだから。
なにか、悪いことが起こったのは明白だった。