劇薬博士の溺愛処方

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 ――どうしよ、琉先生に「早漏」なんて言っちゃった……気を落とさなければいいんだけど。

 新宿広小路薬局のカウンターで、日下部三葉もまた、重たい溜め息をついていた。

 今日はまだ火曜日。
 本日の主な仕事は病院からの処方箋を受け付け、薬を準備し、お客さんに用法用量を守るよう説明し、お薬手帳にシールを貼り付けお会計をする、という病院薬局で行っていた勤務とほとんど代わり映えしないが、夕方近くになると、客層に変化が起こる。
 精力剤にコンドーム、潤滑ゼリーに大人のオモチャ……なぜ薬局にこんなものまであるのかは謎だが、未だに検査入院中の叔父の趣味(経営戦略)なのだろう、深く考えないでとりあえず販売に徹する三葉である。

 そのなかには自慰に使用する男性向けのグッズもあった。埃を被っているそれは、カップのなかで女性の膣内を再現したもので、自身の勃起したナニを突っ込み、吐精することで己の性欲を解消することができるポピュラーな商品である。三葉はひょいと取りだし、説明書を斜め読みする。
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