劇薬博士の溺愛処方

 店頭に立った最初の金曜日の夕方に、子供用投薬ゼリーと性交渉で使う潤滑ゼリーを間違えて怒られたのは記憶に新しい。
 ただでさえ金曜日は忙しいのだ。なぜなら……

「いらっしゃいませ」
「皇帝液」
「900円です」

 仕事帰りのスーツ姿の男性がドリンク剤を購入し、その場で飲んでいく。入れ替わるようにカップル連れが来て、コンドームを買い求めてきた。OLらしき女性が店のドリンク棚に並んでいる精力剤を興味深そうに眺めている。結局男性は彼女のためにと奮発して一番高い、一万円の精力ドリンク『マムシホルモンオット精』を買っていった。
 このまま歌舞伎町のホテル街へ向かうのだろう。お互い腕を組みながら店を出ていった。
 ……なぜなら、そう、金曜日の夜は長いから。

 ――お楽しみはこれからなのね。

 三葉は病院の調剤薬局ではけして見ることのなかった光景を見送りながら、苦笑を浮かべる。昼間は病院の処方箋が主要だが、夜になるとこの薬局は精力剤のメッカに変わる。
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