劇薬博士の溺愛処方
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「そこでいい。動かさないで。頭を打っている。念のためMRIで画像診断してから……」
「――では、早見先生のところに連絡してきます」
聞き覚えのある耳障りの良い声が、三葉を覚醒させる。コツコツという床を叩く音が遠ざかるのと同時に、ふわりと懐かしい消毒液の匂いが鼻孔をくすぐる。
瞳をひらけば、そこにはパリッとした白衣を着た恋人の姿があった。
どうやら自分は飛鷹を庇って居酒屋の床に頭をぶつけ、意識を失っている間にかつての勤務先である総合病院の夜間外来へ救急車で搬送されてきたみたいだ。
「琉先生……?」
――そういえば今夜は彼が夜間外来の当直だって飛鷹先生言っていたっけ……
「気がついた? 意識混濁してない? 俺が誰だかわかる?」
患者に向けて優しく声かけをしていたはずの琉は、三葉に名を呼ばれたことで口調を戻し、心配そうにたたみかけてくる。
そんな彼の声かけに、ぼんやりしていた三葉はああやっぱり琉先生だと理解して、くすりと笑う。
「わかりますよ恋人のことわからないわけないでしょ……」