劇薬博士の溺愛処方
「知らなかった、です……」
三葉は、琉がはじめからそのことを知っていてあえて口にしていなかったのだと気づき、唖然とする。
「先生、知ってたの?」
「知ってたよ? ラブホ検索アプリで調べたときに見たんだ。だから言ったでしょ、派手なところだ、って」
「派手……の意味合いがちょっと」
三葉が想像していたのはプラネタリウムのような、電気を消したら蛍光色の絵が浮き出る壁とかカラフルな照明とか正方形じゃないベッドとかそういったものだったのだが、まさか全面鏡張りが売りだったとは……扉の前で唖然とする恋人の肩をぽん、と叩いて琉はすたすたと部屋のなかへと入っていく。
「ぼーっと突っ立ってないで、はやくこっちにおいで。ぜんぶ鏡だから、俺や三葉がいっぱいいるぞ!」
「……う、はい」
ふだんとは異なるシチュエーションだからか、浮かれてベッドのスプリングを確かめる琉を見て、三葉も意を決して鏡張りの室内へと足を踏み入れていく。
視界に影響がないよう設計されているのか、照明でキラキラ反射する鏡の壁は思ったよりも眩しくなく、三葉はよろめくこともなく琉が待つベッドに辿り着いた。