劇薬博士の溺愛処方
バレンタイン&ホワイトディ番外編
バレンタイン・エチュード
三葉は焦っていた。今年のバレンタイン・ディは木曜日。
約束はしたものの、仕事で忙しい彼とイルミネーションの前で待ち合わせだなんて、ちゃんとできるのだろうか?
薬局の閉店業務を終えて、白衣を脱げば、ふだんより華やかなオフホワイトのニットワンピース。
ナースシューズを焦げ茶のロングブーツに履き替え、ベージュのコートを羽織って店を出れば、新宿の雑踏が襲いかかる。
西口から大ガードを抜ければ東口の駅前広場はもうすぐそこ。自然と駆け足になるも、仕事帰りのひとや学生、イベントになると湧いて出てくるカップルたちに邪魔されて、なかなか目的の場所までたどり着くことが叶わない。
はふ、と白い息を吐きだせば、その横に。
「……いた」
「お疲れ」
「わたしの方が早いと思ったのに」
不貞腐れた顔をすれば、彼――琉がくすりと笑う。
「こうして待ち合わせするの、はじめてだよな」
「……そうだ、ね」
いつもは薬局まで迎えに来てくれる彼が、珍しく人並みに待ち合わせをしてみたいと言ったから。
今日は同じようでふだんとは違う特別な一日を出会いからして演出させる。