劇薬博士の溺愛処方
 三葉は鞄からダークレッドの包装紙に包まれた小箱を取り出す。

「せんせ」
「……おぅ」

 さりげなく渡された高級チョコレートの入った小箱を受け取った琉は、嬉しそうに包装紙をその場ではがしだす。まるで子どもみたいに。
 
「まさか……ここで食べるんですか?」

 待ち合わせ場所で包装を破るまでは想定内だが、この場でいきなりもぐもぐ食べ始めるとは思っていなかったから三葉は困惑を隠せない。
 とはいえ、寒い夜の外で一粒千円近くする高級チョコレートをもくもくと食べる恋人の姿は、滑稽だけど、愛おしい。
 三葉はしょうがないなぁとため息をついて、彼が手にしている小箱のなかの、最後の一粒を奪い取り、雲ひとつない夜の空に掲げる。
 
「最後の一粒……チョコレート!」
「チョコレート、欲しいの?」

 彼の悲痛そうな声を遮って、三葉は告げる。
 
「じゃあ、ここで『あーん』ってして」

 拗ねた表情で誘えば、琉はあっさり陥落する。
 
「あー」

 チョコレートを掴んだ指先を彼の大きくひらいた口許に寄せながら、三葉は悪戯に顔を近づけ、チョコレートを食べる琉の口へ蓋をする。
 
「んっ……!」
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