白衣とブラックチョコレート

必ず助ける

呼ばれている。

雛子は現実の世界で薄らと目を開けた。寒くて凍えそうだった身体が、いつの間にか抱きとめられていてとても暖かい。


「……たか、が、みね……せんせ……」


雛子の身体を抱える鷹峯は、見たこともないほど焦った表情で必死に雛子に呼び掛けていた。













鷹峯はB階段の七階付近の踊り場に倒れている雛子を見つけ、すぐに駆け寄った。


「雨宮さん!? 雨宮さんっ……! 聞こえますかっ!?」


自分でも柄にもないほど動揺しているのが分かる。しかし元外科医としての性なのか、血塗れの雛子を目にした瞬間、素早く全身を視診し状況を判断しようとする自分もいる。


雛子の左側腹部には刺傷があり、凶器は恐らく一つ下の踊り場に落ちているサバイバルナイフ。ということは、傷は最深で約十センチ、臓器を損傷している可能性も考えられる。

橈骨動脈は触知不可。頚部では微弱ながら何とか触知可。

白衣から露出した手足や顔など至る所に打撲痕。壁や床に流れた出血痕が階段の上で一往復しているのを見るに、鷹峯の中で一つの可能性が弾き出される。


(この踊り場で刺され、一度下まで落下した後にまたここまで上ってきた……?)


もし落下していた場合、頭部や胸部、骨盤など別の部位の損傷も考慮しなければならない。


「雨宮さんっ!! 分かりますかっ!?」


呼吸が浅く速い。傷口を手でしっかりと圧迫しながら、鷹峯は必死に雛子の名を呼ぶ。


「雨宮さんっ!! 聞こえたら目を開けて下さい!!」


ふと、雛子の目が薄く開く。



「……たか、が、みね……せんせ……」



鷹峯を認識し、名前を呼んだ。しかしすぐに、再び瞳は閉じられる。


とにかく、急いで処置しなければ。


鷹峯は雛子を抱き上げると、職員や患者が避難している一階の外来ロビーへと急いだ。



「必ず助けますからね、雨宮さん」



















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