白衣とブラックチョコレート
赤タグ
「っ……!!!!」
向こうからパーテーションの方へ向かって、人を抱えて走ってくる人物が見えた。
鷹峯だ。
「雨宮っ……!!」
弾かれたように、恭平はそちらへ向かった。鷹峯もその声に気付きこちらを向く。
目の端に幸子も走り出そうとするのが見えたが、父親である池野が引き止めたようだった。
「雨宮! 雨宮っ……!!」
抱かれた雛子は、血に塗れぐったりとしていた。腹部から出血しており、至るところに大きな内出血の痕もある。恭平は震える指先で、雛子の頬に触れた。
ゾッとする程冷たい。
「……桜井君、落ち着いて。彼女を揺らさないで下さい。頭部外傷の恐れもあります」
鷹峯はパーテーションの奥にあったストレッチャーに雛子を横たえながら、冷静な声で恭平を制す。
「っ、なんで……何でだよっ……」
何故、こんなことに。どうして雛子が。恭平は思わず鷹峯の血に染った白衣を掴む。それを鷹峯に言ってもどうしようもないことくらい、自分でも理解していた。
そんな恭平に構わず、鷹峯はその場にいたトリアージ担当の医師と短く会話を交わす。
雛子の手首に、最優先治療群である赤いタグが取り付けられた。
「……見ての通り、赤タグです。早急にオペしなければ命に関わる」
鷹峯は雛子に酸素マスクを取り付け、ルート確保をしながら静かな声で告げる。落ち着いて聞こえるその声も、平素より僅かに上擦っているように感じた。それ程、この状況が緊急性を帯びていることが伺える。
恭平がストレッチャーの上の雛子の手を握ると、伏せられていた睫毛が少しだけ開かれた。
「雨宮っ……!?」
「さ、くら、い……さん……」
弱々しく、けれどはっきりと、恭平の名前を呼んだ。そして握っていた手をゆっくりと上げ、恭平に縋るように伸ばす。
「河西、さん……追いかけて……おく、じょう……」
伸ばされた手が、恭平の白衣を血で汚す。
「はや、く……うぅっ……」
「もう良いっ、分かったからっ……」
雛子の顔が苦痛に歪む。その苦しそうな表情に耐えられず、恭平は雛子から顔を背けた。
「鷹峯、せんせ……」
次に雛子は、鷹峯に目を向ける。
「先生……前にも、私を……助けてくれたこと、ありますよね……?」
「……おや、覚えていたんですか」
必死に言葉を伝えようとする雛子に、鷹峯が優しく笑いかける。
「思い、出したんです……わたしが……事故でっ……」
雛子の喉がひゅうと音を立てる。鷹峯が止血を確認しようと傷口に触れると、激痛に身体が跳ねた。
当てられたガーゼには、じわじわと血液が染み出している。
「事故で……、病院、に……」
「……もう、お喋りは終わりにしましょう。傷に障ります」
尚も喋り続けようとする雛子を、鷹峯が制した。
向こうからパーテーションの方へ向かって、人を抱えて走ってくる人物が見えた。
鷹峯だ。
「雨宮っ……!!」
弾かれたように、恭平はそちらへ向かった。鷹峯もその声に気付きこちらを向く。
目の端に幸子も走り出そうとするのが見えたが、父親である池野が引き止めたようだった。
「雨宮! 雨宮っ……!!」
抱かれた雛子は、血に塗れぐったりとしていた。腹部から出血しており、至るところに大きな内出血の痕もある。恭平は震える指先で、雛子の頬に触れた。
ゾッとする程冷たい。
「……桜井君、落ち着いて。彼女を揺らさないで下さい。頭部外傷の恐れもあります」
鷹峯はパーテーションの奥にあったストレッチャーに雛子を横たえながら、冷静な声で恭平を制す。
「っ、なんで……何でだよっ……」
何故、こんなことに。どうして雛子が。恭平は思わず鷹峯の血に染った白衣を掴む。それを鷹峯に言ってもどうしようもないことくらい、自分でも理解していた。
そんな恭平に構わず、鷹峯はその場にいたトリアージ担当の医師と短く会話を交わす。
雛子の手首に、最優先治療群である赤いタグが取り付けられた。
「……見ての通り、赤タグです。早急にオペしなければ命に関わる」
鷹峯は雛子に酸素マスクを取り付け、ルート確保をしながら静かな声で告げる。落ち着いて聞こえるその声も、平素より僅かに上擦っているように感じた。それ程、この状況が緊急性を帯びていることが伺える。
恭平がストレッチャーの上の雛子の手を握ると、伏せられていた睫毛が少しだけ開かれた。
「雨宮っ……!?」
「さ、くら、い……さん……」
弱々しく、けれどはっきりと、恭平の名前を呼んだ。そして握っていた手をゆっくりと上げ、恭平に縋るように伸ばす。
「河西、さん……追いかけて……おく、じょう……」
伸ばされた手が、恭平の白衣を血で汚す。
「はや、く……うぅっ……」
「もう良いっ、分かったからっ……」
雛子の顔が苦痛に歪む。その苦しそうな表情に耐えられず、恭平は雛子から顔を背けた。
「鷹峯、せんせ……」
次に雛子は、鷹峯に目を向ける。
「先生……前にも、私を……助けてくれたこと、ありますよね……?」
「……おや、覚えていたんですか」
必死に言葉を伝えようとする雛子に、鷹峯が優しく笑いかける。
「思い、出したんです……わたしが……事故でっ……」
雛子の喉がひゅうと音を立てる。鷹峯が止血を確認しようと傷口に触れると、激痛に身体が跳ねた。
当てられたガーゼには、じわじわと血液が染み出している。
「事故で……、病院、に……」
「……もう、お喋りは終わりにしましょう。傷に障ります」
尚も喋り続けようとする雛子を、鷹峯が制した。