白衣とブラックチョコレート
行方知れず
「そろそろ夕食の時間ね。戻りましょうか」
いくつかの浴場を回り皆が羽目を外す中、冷静に時計を見ていた真理亜の掛け声で一同は部屋に戻ることになる。
宿泊している縁の間は旧館を抜けてさらに屋外へ一度出なければ辿り着けない。せっかく温まった身体が湯冷めしないよう、皆小走りで部屋を目指す。
「ただいまぁ〜。あ、恭平寝ちゃってる。寝顔撮っちゃおーっと」
部屋に戻ると、恭平は敷かれた布団に頭だけ乗せる形で眠り込んでおり、悠貴は少し離れたところでミネラルウォーターを飲みながらスマホをいじっていた。
舞がすかさずスマホを構えて恭平の寝顔を撮影する。
「おかえり。ていうかよくこんな時間ギリギリまで風呂入ってられるな。俺なんてあの後二つ行って満足したぞ」
スマホから目を上げ、悠貴が呆れた様に宣う。
「あら……だって、どうせなら全部制覇したいじゃない?」
「うおっ、そ、そうっすね!」
真理亜が悠貴に近付き声を掛けると、彼は途端にキョロキョロと視線を彷徨わせた。湯上がりの色っぽい浴衣姿を見ないようにわざと明後日の方向を見ているのがバレバレだ。
「真理亜さん色っぽいわね……そりゃ入山がキョドるのも分かるわ……」
納得して頷いている夏帆に対し、舞は不機嫌そうに悠貴を見遣る。「お色気担当は私」とでも言いたげだ。
「な〜に鼻の下伸ばしてるのぉ? ったくこれだから万年発情ザルは〜」
馬鹿にしたように鼻を鳴らす舞に、悠貴は憤慨する。
「誰が万年発情ザルじゃこの淫乱腹黒モンペがっ!」
「何ですってぇっ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の声に、眠っていた恭平が身動ぎをした。煩そうに眉間に皺を寄せながら、むくりと身体を起こす。
「……あれ、皆帰ってたんだ」
恭平が起き上がったのを見るや雛子は彼の横に膝をつき、少しだけ小首を傾げながら笑みを浮かべる。
「おはようございます、桜井さん。もうすぐご飯の時間ですよ?」
「……」
顔が近付き、ふわりと湯上りの良い香りが恭平の鼻腔をくすぐる。色白の肌は桃色に上気し、仕事中とは違いルーズに髪をまとめたうなじが艶めかしく感じる。
「……桜井さん?」
返事をしない恭平に、雛子はまた首を傾げて見せた。平素とは雰囲気の違う雛子に、恭平は暫し目を奪われていた。
「いや、何でもない……たかみーは?」
雛子から視線を逸らし、辺りを見回す。そこに鷹峯の姿は見つけられない。
「そう言えばいませんね……お風呂に行かれたんですか?」
「ああ。……ったく、出てきたら起こせって言ったのに」
ちょうどその時、土間の向こうの玄関扉がノックされる。返事をすると扉が開き、仲居よりも格式高い着物を着込んだ女性が恭しく頭下げた。
「皆様、ようこそお越し下さいました。当館の若女将、瀬山と申します。宜しく御願い致します。お食事の準備をさせて頂きます」
そう言って若女将が端によると、後ろに控えていた仲居が数人、食事の乗った掛盤膳を携えて部屋へと上がる。彼女達は無駄な所作一つなく人数分の掛盤膳を並べ終えると、再び速やかに部屋をあとにする。
「めっちゃ美味しそう!」
「やべぇ〜! テンション上がるー!」
一年目の同期二人は手を取り合って喜んでいる。こういう時は本当に息ぴったりだ。
そんな二人を筆頭に、それぞれ掛盤膳を前にして座布団の上に座る。
「鷹峯先生いないけど、どうしようかしら?」
「電話しても出ねーわ。ま、ほっときゃそのうち戻ってくるだろ」
一方五年目同期組はというと、冷静に鷹峯の行方を案じていた。恭平が一応電話してみるも反応はなく、ひとまず先に食事を取り待つことにする。
いくつかの浴場を回り皆が羽目を外す中、冷静に時計を見ていた真理亜の掛け声で一同は部屋に戻ることになる。
宿泊している縁の間は旧館を抜けてさらに屋外へ一度出なければ辿り着けない。せっかく温まった身体が湯冷めしないよう、皆小走りで部屋を目指す。
「ただいまぁ〜。あ、恭平寝ちゃってる。寝顔撮っちゃおーっと」
部屋に戻ると、恭平は敷かれた布団に頭だけ乗せる形で眠り込んでおり、悠貴は少し離れたところでミネラルウォーターを飲みながらスマホをいじっていた。
舞がすかさずスマホを構えて恭平の寝顔を撮影する。
「おかえり。ていうかよくこんな時間ギリギリまで風呂入ってられるな。俺なんてあの後二つ行って満足したぞ」
スマホから目を上げ、悠貴が呆れた様に宣う。
「あら……だって、どうせなら全部制覇したいじゃない?」
「うおっ、そ、そうっすね!」
真理亜が悠貴に近付き声を掛けると、彼は途端にキョロキョロと視線を彷徨わせた。湯上がりの色っぽい浴衣姿を見ないようにわざと明後日の方向を見ているのがバレバレだ。
「真理亜さん色っぽいわね……そりゃ入山がキョドるのも分かるわ……」
納得して頷いている夏帆に対し、舞は不機嫌そうに悠貴を見遣る。「お色気担当は私」とでも言いたげだ。
「な〜に鼻の下伸ばしてるのぉ? ったくこれだから万年発情ザルは〜」
馬鹿にしたように鼻を鳴らす舞に、悠貴は憤慨する。
「誰が万年発情ザルじゃこの淫乱腹黒モンペがっ!」
「何ですってぇっ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の声に、眠っていた恭平が身動ぎをした。煩そうに眉間に皺を寄せながら、むくりと身体を起こす。
「……あれ、皆帰ってたんだ」
恭平が起き上がったのを見るや雛子は彼の横に膝をつき、少しだけ小首を傾げながら笑みを浮かべる。
「おはようございます、桜井さん。もうすぐご飯の時間ですよ?」
「……」
顔が近付き、ふわりと湯上りの良い香りが恭平の鼻腔をくすぐる。色白の肌は桃色に上気し、仕事中とは違いルーズに髪をまとめたうなじが艶めかしく感じる。
「……桜井さん?」
返事をしない恭平に、雛子はまた首を傾げて見せた。平素とは雰囲気の違う雛子に、恭平は暫し目を奪われていた。
「いや、何でもない……たかみーは?」
雛子から視線を逸らし、辺りを見回す。そこに鷹峯の姿は見つけられない。
「そう言えばいませんね……お風呂に行かれたんですか?」
「ああ。……ったく、出てきたら起こせって言ったのに」
ちょうどその時、土間の向こうの玄関扉がノックされる。返事をすると扉が開き、仲居よりも格式高い着物を着込んだ女性が恭しく頭下げた。
「皆様、ようこそお越し下さいました。当館の若女将、瀬山と申します。宜しく御願い致します。お食事の準備をさせて頂きます」
そう言って若女将が端によると、後ろに控えていた仲居が数人、食事の乗った掛盤膳を携えて部屋へと上がる。彼女達は無駄な所作一つなく人数分の掛盤膳を並べ終えると、再び速やかに部屋をあとにする。
「めっちゃ美味しそう!」
「やべぇ〜! テンション上がるー!」
一年目の同期二人は手を取り合って喜んでいる。こういう時は本当に息ぴったりだ。
そんな二人を筆頭に、それぞれ掛盤膳を前にして座布団の上に座る。
「鷹峯先生いないけど、どうしようかしら?」
「電話しても出ねーわ。ま、ほっときゃそのうち戻ってくるだろ」
一方五年目同期組はというと、冷静に鷹峯の行方を案じていた。恭平が一応電話してみるも反応はなく、ひとまず先に食事を取り待つことにする。