白衣とブラックチョコレート
キスでイかせて
「やっぱりいない、ですよね……」
縁の間専用露天風呂である陰の湯。鷹峯の捜索にあたり真っ先に訪れたここに、恭平と雛子は念の為にと最後にもう一度足を踏み入れる。
恭平がうたた寝する間際に、鷹峯が訪れたはずのこの場所。
元々狭い脱衣所とその先に小さな湯船があるだけのシンプルな構造で、人の隠れるようなスペースはない。
鷹峯の足取りが掴める最初で最後の場所なのだが、やはりそこに探し人の姿は見つからなかった。
「どこに行っちゃったんでしょう……鷹峯先生……」
脱衣所までの僅かな距離を屋外移動しただけで、芯まで身体が冷える。二人は部屋に戻るとエアコンの温度を上げ、身を縮ませた。
「はぁ……寒かったですね……」
「……」
心做しか、雛子の顔色があまり良くないように見える。照明のせいだろうか。彼女の睫毛の影が頬に落ちているのを、恭平はじっと見つめる。
「そう言えばお前、今日は薬飲まなくて良いのか?」
「え?」
不安になって恭平が尋ねるも、雛子は間の抜けた表情で首を傾げるだけだった。
「いつも飲んでるだろ。夕食後の薬は?」
「くすり……ですか?」
本気で分からないという顔の雛子に、恭平は若干イラつきながら再度尋ねた。しかし返ってくる答えは、知らない、分からないの言葉ばかりで埒が明かない。
(ったくどうなってるんだ……たかみーは帰ってこねぇし、彼女(これ)は一体……)
何かがおかしい。
考えようとしても、何故か思考がぼやけて頭が回らない。甘ったるく辛気臭い香の匂いが鼻をついて、考えることを放棄しそうになる。
ふと、自分の上に影が差したことに気付き、恭平は顔を上げる。見ると、先程まで自分の隣で同じように座り込んでいた雛子が立ち上がり、こちらを見下ろしていた。
「どうし……おわ、っと」
声を掛ける前に、雛子に胸を押されバランスを崩して仰向けに倒れた。その恭平の腹の上に、雛子が脚を開いて跨る。彼女の浴衣の裾が大きく捲れ、淡いベビーピンクのレースがチラリと覗いた。
「っ……」
思わずドキリと胸が鳴って視線を上へずらすと、今度ははだけた胸元に視線が吸い寄せられる。まな板だの何だのと散々言われていても、こうして見ると形の良い胸の谷間が暗い照明によってくっきりと陰影をつけていた。
抜けるように白く滑らかな肌に、思わず視線が釘付けになる。
「桜井さん……」
濡れたような、苦しそうなその声音に、恭平ははっとして雛子の顔を見た。彼女はやはり長い睫毛を伏せたまま、恭平を見下ろしていた。
「好きです……桜井さん……」
雛子は苦しそうに、そう告げた。
「私、桜井さんが好きなんです……」
ゆっくりと、雛子の赤い唇が降ってくる。そしてまるで小鳥が啄むように、そっと恭平の唇を塞いだ。
「んっ……」
ただ触れるだけだった口付けに、終止符を打ったのは恭平だった。
「んぁっ……は、あっ……」
雛子の後頭部を押さえ付け、恭平は彼女の口内を犯した。
「あっ……ぁ、桜井さ、んっ……!」
恭平が舌を絡めるたび、雛子の身体が大きく跳ね上がる。まるで行為の最中に敏感な場所を愛撫されているかのようなその反応に、恭平は気を良くして更に攻め続ける。
「あん、んっ、ダメッ、いや、桜井さっ……あっ、ああっ……!」
突然、雛子の身体が激しく痙攣し、くたりと恭平の上に倒れ込む。
「あっ……はぁっ……はっ……」
まるで糸の切れた人形のように力なく倒れ込んだまま、荒い呼吸を繰り返す雛子。一連の流れを理解するまでに、普段は頭の回転が早い恭平ですら数秒を要した。
この反応は、つまり、そういうことか、と。
(う、嘘、だろ……キスだけで……?)
これまでの豊富な経験の中でも、かつてそういう女性とは縁がない。
「お、おい、大丈夫か……?」
うつろな表情の雛子の下から這い出し、彼女を抱きかかえて頬を軽く叩く。
「おいっ……雨宮っ……?」
狼狽える恭平に数度身体を揺すられたところで、雛子はようやく少しだけ視線を持ち上げた。
「はぁー、全く酷い目に遭いましたぁ」
「っ!?」
突然の来訪者に、恭平は犯行現場を目撃された犯罪者よろしく身体を大きく跳ねさせた。
「たかみー!? どこ行ってたんだよ!! 皆探してっ……」
そこにいたのは紛れもなく件の人物、鷹峯柊真その人であった。
あろうことか、先程自分達が見に行ったはずの陰の湯へと続く扉から彼は現れた。
「あ……た、鷹峯、せんせ……?」
ぼんやりとしていた雛子の瞳にも、ようやく鷹峯の姿が認識された。彼の無事が分かると、雛子は嬉しそうに恭平の腕に纏わりつく。
「桜井さん……良かった。鷹峯先生、無事見つかったんですね」
「あ、ああ……」
(良かった……気が付いて……)
後半は口には出さず内心ほっとする。さり気なく雛子のはだけた浴衣を直してやる。
その一連の流れを見ていた鷹峯は、鬱陶しそうなうんざりしたような表情で溜息を吐く。
「なんですかぁ、そのイチャイチャっぷりは? もしかしてお二人とも、まだ頭が可笑しいまんまですかぁ〜?」
鷹峯の含みのある物言いに、恭平は眉を顰める。
「まだ、だと? 頭が可笑しいって、どういうことだよ?」
怪訝な表情の恭平に、鷹峯はやれやれと首を振りながら雛子に近付いた。
「それはね、こういうことですよ」
「きゃあっ……!?」
雛子の背後に回った鷹峯。たった今恭平が直したばかりの彼女の浴衣に手を掛けると、それを何の躊躇いもなく左右に開いてみせた。
再び淡いベビーピンクの上下が、今度はあられもなく露呈する。
「ちょっ、何やってんだよっ!!」
「彼女の腹部に何が見えますか?」
狼狽える恭平に構わず、鷹峯はそう質問する。
「何がって……何が聞きたいんだよ……?」
「せ、先生やめてくださいっ……恥ずかしいです……」
訝しむ恭平と顔を赤らめる雛子の反応に、鷹峯は仰々しく溜息を吐く。
「良いですか。私にはここに、大きな傷痕が見えます。最初からね」
鷹峯の指先が、ゆっくりと腹部をなぞる。
「えっ……?」
「は……?」
縁の間専用露天風呂である陰の湯。鷹峯の捜索にあたり真っ先に訪れたここに、恭平と雛子は念の為にと最後にもう一度足を踏み入れる。
恭平がうたた寝する間際に、鷹峯が訪れたはずのこの場所。
元々狭い脱衣所とその先に小さな湯船があるだけのシンプルな構造で、人の隠れるようなスペースはない。
鷹峯の足取りが掴める最初で最後の場所なのだが、やはりそこに探し人の姿は見つからなかった。
「どこに行っちゃったんでしょう……鷹峯先生……」
脱衣所までの僅かな距離を屋外移動しただけで、芯まで身体が冷える。二人は部屋に戻るとエアコンの温度を上げ、身を縮ませた。
「はぁ……寒かったですね……」
「……」
心做しか、雛子の顔色があまり良くないように見える。照明のせいだろうか。彼女の睫毛の影が頬に落ちているのを、恭平はじっと見つめる。
「そう言えばお前、今日は薬飲まなくて良いのか?」
「え?」
不安になって恭平が尋ねるも、雛子は間の抜けた表情で首を傾げるだけだった。
「いつも飲んでるだろ。夕食後の薬は?」
「くすり……ですか?」
本気で分からないという顔の雛子に、恭平は若干イラつきながら再度尋ねた。しかし返ってくる答えは、知らない、分からないの言葉ばかりで埒が明かない。
(ったくどうなってるんだ……たかみーは帰ってこねぇし、彼女(これ)は一体……)
何かがおかしい。
考えようとしても、何故か思考がぼやけて頭が回らない。甘ったるく辛気臭い香の匂いが鼻をついて、考えることを放棄しそうになる。
ふと、自分の上に影が差したことに気付き、恭平は顔を上げる。見ると、先程まで自分の隣で同じように座り込んでいた雛子が立ち上がり、こちらを見下ろしていた。
「どうし……おわ、っと」
声を掛ける前に、雛子に胸を押されバランスを崩して仰向けに倒れた。その恭平の腹の上に、雛子が脚を開いて跨る。彼女の浴衣の裾が大きく捲れ、淡いベビーピンクのレースがチラリと覗いた。
「っ……」
思わずドキリと胸が鳴って視線を上へずらすと、今度ははだけた胸元に視線が吸い寄せられる。まな板だの何だのと散々言われていても、こうして見ると形の良い胸の谷間が暗い照明によってくっきりと陰影をつけていた。
抜けるように白く滑らかな肌に、思わず視線が釘付けになる。
「桜井さん……」
濡れたような、苦しそうなその声音に、恭平ははっとして雛子の顔を見た。彼女はやはり長い睫毛を伏せたまま、恭平を見下ろしていた。
「好きです……桜井さん……」
雛子は苦しそうに、そう告げた。
「私、桜井さんが好きなんです……」
ゆっくりと、雛子の赤い唇が降ってくる。そしてまるで小鳥が啄むように、そっと恭平の唇を塞いだ。
「んっ……」
ただ触れるだけだった口付けに、終止符を打ったのは恭平だった。
「んぁっ……は、あっ……」
雛子の後頭部を押さえ付け、恭平は彼女の口内を犯した。
「あっ……ぁ、桜井さ、んっ……!」
恭平が舌を絡めるたび、雛子の身体が大きく跳ね上がる。まるで行為の最中に敏感な場所を愛撫されているかのようなその反応に、恭平は気を良くして更に攻め続ける。
「あん、んっ、ダメッ、いや、桜井さっ……あっ、ああっ……!」
突然、雛子の身体が激しく痙攣し、くたりと恭平の上に倒れ込む。
「あっ……はぁっ……はっ……」
まるで糸の切れた人形のように力なく倒れ込んだまま、荒い呼吸を繰り返す雛子。一連の流れを理解するまでに、普段は頭の回転が早い恭平ですら数秒を要した。
この反応は、つまり、そういうことか、と。
(う、嘘、だろ……キスだけで……?)
これまでの豊富な経験の中でも、かつてそういう女性とは縁がない。
「お、おい、大丈夫か……?」
うつろな表情の雛子の下から這い出し、彼女を抱きかかえて頬を軽く叩く。
「おいっ……雨宮っ……?」
狼狽える恭平に数度身体を揺すられたところで、雛子はようやく少しだけ視線を持ち上げた。
「はぁー、全く酷い目に遭いましたぁ」
「っ!?」
突然の来訪者に、恭平は犯行現場を目撃された犯罪者よろしく身体を大きく跳ねさせた。
「たかみー!? どこ行ってたんだよ!! 皆探してっ……」
そこにいたのは紛れもなく件の人物、鷹峯柊真その人であった。
あろうことか、先程自分達が見に行ったはずの陰の湯へと続く扉から彼は現れた。
「あ……た、鷹峯、せんせ……?」
ぼんやりとしていた雛子の瞳にも、ようやく鷹峯の姿が認識された。彼の無事が分かると、雛子は嬉しそうに恭平の腕に纏わりつく。
「桜井さん……良かった。鷹峯先生、無事見つかったんですね」
「あ、ああ……」
(良かった……気が付いて……)
後半は口には出さず内心ほっとする。さり気なく雛子のはだけた浴衣を直してやる。
その一連の流れを見ていた鷹峯は、鬱陶しそうなうんざりしたような表情で溜息を吐く。
「なんですかぁ、そのイチャイチャっぷりは? もしかしてお二人とも、まだ頭が可笑しいまんまですかぁ〜?」
鷹峯の含みのある物言いに、恭平は眉を顰める。
「まだ、だと? 頭が可笑しいって、どういうことだよ?」
怪訝な表情の恭平に、鷹峯はやれやれと首を振りながら雛子に近付いた。
「それはね、こういうことですよ」
「きゃあっ……!?」
雛子の背後に回った鷹峯。たった今恭平が直したばかりの彼女の浴衣に手を掛けると、それを何の躊躇いもなく左右に開いてみせた。
再び淡いベビーピンクの上下が、今度はあられもなく露呈する。
「ちょっ、何やってんだよっ!!」
「彼女の腹部に何が見えますか?」
狼狽える恭平に構わず、鷹峯はそう質問する。
「何がって……何が聞きたいんだよ……?」
「せ、先生やめてくださいっ……恥ずかしいです……」
訝しむ恭平と顔を赤らめる雛子の反応に、鷹峯は仰々しく溜息を吐く。
「良いですか。私にはここに、大きな傷痕が見えます。最初からね」
鷹峯の指先が、ゆっくりと腹部をなぞる。
「えっ……?」
「は……?」