秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
「課長!すっごく美味しいですね。本当に穴場のお店ですね。」

「そうだろ。絶対に言うなよ。」

「わかりました!」

「特に女には言うなよ。」

「はいはい。課長の癒しを邪魔されないように言いませんよ。」

結局会社の女の子たちに来られたら困るってことか。
私は女に入らないってことね。
ま、いいけどさ。
課長に女として見られてないなんて、そんなことわかってることだし。
っていうか課長だけじゃなくてみんなにも女として見られてないことも知ってるし。

でもいいんだもん。
みんなと仲良く仲間として働いていけたらいいんだもん。

なんか見て麗しい課長といると卑屈になって嫌だな…。

はぁ…こんな自分嫌だなぁ。

知らずとため息がもれてしまう。

「なんだよ、ため息ついて。」

「ハハ…ま、いいんです。」

「さっき癒されたいって言ってただろ。杉原の癒しって何?」

「それはともくんです。」

「彼氏?じゃないんだよな…?」

「友達の子供です。私が出産にも立ち会って、生まれたその瞬間からずっと見てきたんです。今2歳過ぎなんですけど、なにせ可愛くて仕方ないんです。私のこと『まーちゃん』なんて言ってくれるんです。あの子のためなら死ねるかも。」

「そうか…相当な入れ込み様だな。友達の子でもそんなに可愛いのか。」

「それはもう可愛いなんてもんじゃないです。世界一です。でも…友達はともくんのパパとすれ違ってたけどこの度うまくいって結婚することになったんです。いつも会っていたのに私から離れていっちゃうんです…うわーん…。」

お酒が入ったせいか泣き上戸になってしまった。

「千佳が結婚するのは嬉しいんです。幸せになって欲しいって本心から思ってるんです。ともくんにもパパが必要なのもわかってるんですー。でも寂しいんです。会えなくなるわけじゃないのに、でも寂しくて仕方ないんです。」

私はしゃくり上げながら泣いてしまった。
思っていても口に出せなかったことがお酒の力もあってつい言ってしまった。

「ともくんに会いたい。遊びたい。まーちゃんって呼んで欲しい…。」

「杉原、落ち着いて…。遠くに行くわけじゃないんだろ?」

「はい。でも同じ駅にいたのに引っ越しちゃったんです。だから会いたい時にすぐ会えなくなっちゃった〜…。」

「でもまーちゃんって呼んでくれるくらい懐いてるんだろ?」

「でもまだ2歳だからたくさん会わないと忘れられちゃいます。ともくんに忘れられたら生きていけないです…。」

訳がわからなくなってきて何を言われても泣きが入ってしまった。
無意識に心にぽっかりと空いた穴を課長にさらけだしてしまった。
< 10 / 182 >

この作品をシェア

pagetop