秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
車の中で過ごす時間は苦痛ではなく話を振ってくれる課長に合わせ言葉を返していた。
車に流れるポップな曲もあり、普段通り話せた。
職場だと課長とプライベートな話でもしようものなら女子社員からの目が辛い。
でも今はそんなことがないからなのか会話が弾む。
課長ってこんな人だったんだ…楽しい。

お互いの好きな食べ物や趣味など話していると共通の話題があり楽しい。

課長が気を使って合わせてくれるのかな、と思ったけれど、そもそも課長からの話は私が興味のあることばかりだった。
だからつい素になって自分のことをあれこれ話しをしてしまった。

最近話題のミステリー作家が書き下ろした映画が今日からだから観に行くつもりだと話してしまった…。

「よし、じゃ、今日はそれを観に行こう!」

「え、えぇー!」

「俺もあの作家好きでさ。本も何冊もあるよ。本棚見なかった?」

「そんな余裕ありませんでしたよ!」

「あの作家、なかなか面白いよな。よく考えられてて全然先が見えてこないんだよな。だから先が気になって読み切らずには終われない。何回寝不足にさせられたか…。」

「うわぁ、わかりますよ。それ。本当気になって眠れなくなりますよね。そう来たか、って思わされるんですよね。」

「それが初の映画だろ。楽しみだよなー。」

「そうなんですよね。楽しみにしてたんです。」

「じゃ、決まりだな。さ、駅に近いけど家はどのあたり?」

「えっと…2つ先の信号を右に曲がって、その先の左側にあるレンガっぽい見た目のマンションです。」

「りょーかい。」

「ありがとうございます。」

右折すると私のマンションが見えてきた。

「ここです。」

マンションの前に車を横付けしてくれた。

「ありがとうございました。」

「さ、待ってるからシャワー浴びて着替えておいで。」

「本気ですか??」

「もちろん。むしろなんで嘘だと思うの?」

「えっと……なんとなく?」

「ハハハ、とにかく行っておいで。」

「いえ、時間がかかるのでお待たせするのは申し訳ないです。」

「じゃ、待ち合わせしない?まだ早いし。新宿に13時でどう?」

「本気ですか?!」

「何回も言ってるけど。今日付き合って、と。映画観よう、と。」

「…」

「昨日お世話したお礼だよ。」

「お礼なら改めてしますから。」

「今日映画を見に行くことがお礼だから。さ、ぐずぐず言ってないで早くしないと。新宿の東口でいい?」

「はい。では…のちほど…。」

私は課長の車を見送り、家へ入った。
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