秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
私たちの手は離れることのないままイタリアンのお店に入った。

白塗りの壁に木製のドア、窓にはプランターが飾られておりこじんまりとしたお店だったが味はとてもおいしかった。
特にチーズが美味しくて前菜に、サラダに、パスタにと使われているが全て種類が違う。こんなにも風味が違うのかと思うほどにチーズ料理を楽しんだ。

お腹がいっぱいになりお店を後にした。
割り勘で払おうとするが受け取ってもらえない。
その代わりに、とまた手を繋がれた。

喉の奥がギュッと苦しくなるのを感じた。

明日からの夏休みも一緒に過ごしてみてほしいと言われてしまった。

話していて正直楽しい。
でも楽しいのは雅臣さんが気を遣ってくれているからだと思う。最初は良くてもだんだん雅臣さんの負担になり別れることになるのではないかと今から不安になる。
そんな未来が訪れるのなら最初から始めない方がいいのではないかと思う。
恋愛の経験値が違いすぎて何が普通なのかさえわからなくなってきた。

ただ、すぐに断れないのは少なからず私の心に雅臣さんがいるからだ。

今までは同じ課にいると言うだけでも恐れ多くなるべく接点を持たないようにしていたように思う。周りの女子社員からの視線を気にしてばかりいた。
最初から雅臣さんが誰に対しても平等な人だと気がついていたし、気配りのできる人だと分かっていた。周りをよく見ていて足りないところをさりげなくフォローできる人。叱るべきところは叱り、褒めるところは誉められる人。
こんな人に惹かれないわけがない。
でも惹かれちゃいけないし、自分に振り向いてくれるわけなんてないと勝手に諦めていた。

それを急にこんなことになり、私と向き合いたいと言ってくれている。こんなに嬉しいことはない。
でも…と踏みとどまらせようとする自分もいてずっと心の中で葛藤が続いていた。
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