秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
「真帆。そろそろ帰ろうか。食べてから無言だね。眠くなった?」

「ごめんなさい。考え事していて。つまらなかったですよね。ごめんなさい。」

「いや、考え事は俺のことなのかなぁって。だからよく考えて欲しくて黙ってたんだ。」

「雅臣さんはなんでもわかるんですね。」

「当たってたってこと?」

「……うー。そうかもしれないです。」

「真帆。そんなに思い詰めないで。夏休み楽しく一緒に過ごしてみようよ。」

「雅臣さんを楽しませられるか…一緒にいて期待外れだと言われないかと不安で。」

「反対に俺は真帆にやっぱり無理ですと言われるのが怖いよ。」

「雅臣さんが私に飽きてもやっぱり違うと思われても仕方ないですけど、私から無理と思うことはないのでないでしょうか。でも隣に並ぶのもちょっと…。」

「なるほど。嬉しいな。じゃ、顔を変えてきたらいい?真帆は俺の顔は好みじゃないってことなんだよな。前もカッコいいとは思うけど…って言われたよな。あの続きは好みじゃない、だよな。」

「まさか!かっこいいです!だから隣に並ぶことを躊躇ってます。私なんかが相手の顔のことをとやかく言う立場にはありません!!!」

「俺はただのアラサーだよ。普通だよ、普通の男だよ。真帆は可愛いんだから卑下するな。」

私は俯き気味になる。
雅臣さんに可愛いって言ってもらえるなんてお世辞でも嬉しい。でも誰かに聞かれたらと思うと恥ずかしい。

あぁ…
胸の鼓動の高まりを感じる。
ぎゅっと掴まれるようなこの感覚…いつぶりだろう。
人の手の温もりと大きな手に包まれてる安心感はいつぶりだろう。

雅臣さんは私の手を離すことなくパーキングへ向かった。

車へ乗り込むと夜景を見ながら帰ろう、と少し遠回りしながら自宅まで送ってもらった。

「真帆。今日は遅くまでありがとう。また連絡するから出かけよう。」

「雅臣さん。ありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね。また……連絡待ってます。」

「おやすみ。」
雅臣さんは私の頭頂部にチュッとキスを落とし車に乗り込んでしまった。
窓から手を振ると走り出してしまった。
私はふと我にかえり、慌てて手を振り返した。

車のテールランプが見えなくなり、部屋へ入ると玄関で腰が抜けたように座り込んでしまった。
ヤダ、夏だから頭くさくない?
汗かいた後だよ…。
恥ずかしい。
でも…チュッて…されちゃった。
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