秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
また今日も廊下の電気が消え、ふと気がつくと8時を回っていた。
 
お一人様まっしぐらとはいえ毎日この時間までいるのって私だけじゃん。
自虐ネタのように笑えてくる。
あーあ。定年までこんななのかなぁ。

自然とため息が漏れる。

ともくんに最近会ってないなぁ。
久しぶりに週末会いに行きたいけど…どうかなぁ。

「癒されたいなぁ…。」

思ってることがふと口から出てしまった。
ふと出した自分の声にちょっと驚いた。
そして笑ってしまった。

「あーあ…。心の声がダダ漏れだわ…。」

「そうみたいだな。」

え?!
驚いて振り返ると課長がいた。

「か、課長…。お疲れ様です。」

「杉原、お前の頭の中ダダ漏れだな。癒されたい、か。疲れてるな。」

「いえ。ちょっと言っちゃっただけですから。課長はいまお戻りですか?」

「あぁ、浅川製菓と打ち合わせのあと間宮さんに飲みに誘われてちょっとな。」

「そうでしたか…。お疲れ様でした。」

「杉原はまた残業なのか?後輩の面倒やら部のみんなの世話焼いてるから自分が後回しになるんだぞ。」

「ははは…ま、でもみんなの役に立てるのならいいんです。」

「またそんなこと言って。みんなにつけ込まれるぞ。」

「いいんです。私はこの会社にずっといる人間なので居心地良くしたいんです。なのでお気になさらずに…。」

「杉原は結婚しても続けてくれるのか?」

「いえ、結婚はしないので…。」

「あ、あぁ…そうか…。すまん…。」

「謝らないでください。気まずくなるじゃないですか。」

「あ、すまん…。じゃなくて…えっと…ま、人生どうなるかわからないさ。」

「励まされるのも微妙ですけど。」

「すまん。言えば言うほどドツボにハマる。」

「課長はモテるから考えたこともないでしょうけどアラサーの私は将来の不安があるんです。だから居心地のいい職場にしたいんです。」

私はつい課長に語気強めで話してしまった。

「俺はモテないけど…。」

「十分にモテてますよ。自覚なしですか。」

「思い当たるところはないなぁ。あるなら俺もとっくに結婚してると思うけど。今年33になるしさ。」

「課長は基準が厳しいんじゃないですか?」

「そんなことないと思うけど…。」

「ま、モテる人に私の気持ちは分からないってことで…。それじゃ、そろそろ失礼します。」

「あ。待て。夕飯食べに行こう。」

「間宮さんと飲んできたんでしょう。お気を使わずに…。じゃ、失礼しまーす。」

私は話しながらパソコンを落とし、帰る支度をしていた。
課長に挨拶し外へ出ると課長が追いかけてきた。
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