秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない
「まぁ、そう言うなって。奢ってやるから食べに行こう。俺も少し食べ飲みしただけでまだお腹空いてるし。」

「いえ、結構です。」

「まぁ、まぁそう言うなよ。美味しいもん食べたら癒されるぞ。」

「ハハハ…やっぱりそこに行きつきますね。お恥ずかしい限りです。」

「穴場の旨い店知ってるから連れてってやるよ。みんなに言うなよ。」

私の手を引き歩き始めてしまう課長。
強引だなぁ…。酔ってるのかしら。
でもお腹空いちゃったし奢りならいっか。
でも…手を引かれるのはマズイ。
誰がみてるかわからないんだから!課長のせいで私の居場所がなくなっちゃう。

さっと手を振り解き、
「どこに連れて行ってくれるんですか?」
と尋ねると、
「いいところ。ま、楽しみにしとけよ。味の保証はするから。」

課長は私が振り解いた手を気にする様子もなく
話し続けている。

「杉原は食べられないものあるか?」

「え?今更聞くんですか?ないですけど…。」

「なさそうだと思ったから聞かなかったんだよ。」

なんだこの人…やっぱり酔ってるじゃん。
いつもよりどことなく陽気な課長を横目に2人で路地裏へ入り込む。

この辺りは来たことないなぁ。
キョロキョロしながら進むと、こっちこっち、と手招きされる。

とても古い、今にも潰れそうな……いえ、なんとも趣のあるお店から煙が出ており、暖簾をくぐって行ってしまう。

こ、ここ?!
ま、私だから小洒落たところには連れて行ってくれないか…。
なんだか苦笑いしてしまうが、返って小洒落たところに連れて行かれても困ってしまうから身分相応なのかもしれない。
課長もなんだかんだ言っても分かってるじゃない…。


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