愛は愛より愛し
思い出せば出す度、血の気がさーっと引いていく。
「……付き合ってません」
「あ、そうなの?」
名刺を戻して、鞄の奥底に入れた。
「こんばんは、閑野さん」
視界の端でにこにこと微笑んでいる。
最近、何かと退勤時間に現れる気がする。残業が少ないらしい。
私より少し高い所にある顔を見る。
この男が、石堂財閥の御曹司。
いつか銅像とかに、なるんだろうか。
「僕の顔に何か?」
「綺麗な顔だと思って」
驚いたように目を丸くする。世名は首を少し傾げて、私の顔を覗いた。
「顔も紅くせずそんなことを言われたのは初めてだ。石膏に対する感想?」