愛は愛より愛し
マンションを出て、夜道を歩く。
「それに今日残業だったんですよね。なのに、本当にありがとうございます」
私ならすぐに家に帰りたいと思うだろう。
「……僕が、シズノさんの妹だって分かったから肩を貸したのかもしれない」
夜の、生ぬるい風が吹いた。
頬と腕を撫でていく。
世名の言葉に振り向く。にこりと笑っていた。
「なーんて」
昼のことを思い出す。
返したのに袋に入れられた名刺。
一緒に入っていた端末。帰りに場所を伝えずとも来た世名。
やりかねない、と思った。
この男ならば。