愛は愛より愛し

私より先にいたのか、後から来たのか判断は出来ない。

「こんな時間まで、残業ですか?」
「はい。せ……世名さんも?」
「どうぞ名前で」

そう言われて、久々に失敗したと思った。この歳になって仕事も大体覚えて教える側になっている中、こんな失態。

「だ、だって最初に言ってたの、世名だったじゃないですか」
「僕なにも責めてませんけど」
「それに世名の方が石堂よりも短いし」
「だから名前で良いですって」

世名は電子煙草を咥えて笑う。

「じゃあ名前で呼ばないなら、ぐれちゃんって」
「世名、私は帰る。さよなら」

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