愛は愛より愛し
肩からずり落ちそうになった鞄の持ち手を直して、息を吐いた。
「まあ、何にせよ。他の女性を当たってください」
星は見えないし、吸った煙草の味はよく覚えていない。まあ気持ちは満たせたけれど。
「わかりました。閑野さんに当たりにいきますね」
「全然話聞いてない」
「閑野さんの話は全部覚えてますし、ちゃんと聴いてます」
「……じゃあ、仕事頑張ってください」
そう言えば、世名は顔を輝かせて、こちらに寄った。
何をするのか、と構えながら窺う。
「頑張ります。気を付けて帰ってください」
と言いながら、私の手を握ってぶんぶんと振り、行ってしまった。
まさかね、と思いながらその背中を見送った。