愛は愛より愛し

世名がメニューを開き、こちらに寄越す。

「何でも美味しいよ」

それを覗いた。最近暑いので少食気味になっていたけれど、店内に香る出汁の香りに空腹感が増す。

天ぷらもおいしそう……やまかけもある、きつねも、月見も。

「前は紙煙草吸ってたんだけど、喫煙所もどんどん減って、煙草吸う営業も減って、営業車も禁煙になって、時代に合わせて電子に」
「匂いも違いますもんね」
「閑野さんのそれ、どうして?」

メニューから目を離す。それ、とは。
隣に座った世名に顔を覗かれ、その近さに驚く。

「それって」
「敬語。やっと取れたと思ったんだけど」

< 93 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop