イケメン御曹司の甘い魔法
バレンタイン当日
私は優斗さんを驚かせようと、お昼休みに副社長室を訪ねた。
もちろんチョコレートを渡すためだ。
部屋をノックしようとした時、第一秘書の上田さんに呼び止められた。
上田さんは、優斗さんよりかなり年上のベテラン秘書だ。
少しグレーの髪が素敵な男性だ。
「木下さん、副社長は来客中です。少しお待ちください。」
お昼休みに来客とは珍しい。
近くの机に座って、お客様がお帰りになるのを待つことにした。
“カチャン”
しばらくしてドアが開く音がした。
副社長室が開くと、中から人が出て来る。
来客は女性のようだ。
よく見ると、優斗さんと一緒に部屋から出て来たのは、先日お会いしたばかりの白崎さんだった。
白崎さんは、仲良さそうに優斗さんの腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
白崎さんを送りに行ったのか、優斗さんも一緒に歩いて行ってしまった。
声を掛けられる雰囲気では無い。
心臓がザワザワと嫌な感じに鳴り出す。
私はその場に居たたまれず、優斗さんが向かったであろう入り口のロビーに向い、走り出していた。
ロビーに着くと、優斗さんと白崎さんは立ち話をしている。
白崎さんは、優斗さんの腕をまだ掴んだままだ。
そして、白崎さんは帰る素振りを見せると、もう一度優斗さんの方に振り返った。
次の瞬間、目を疑う光景だった。
白崎さんは、背の高い優斗さんに、背伸びをするようにしてキスをした。
驚いた私は、思わず持っていたチョコレートをその場に落としてしまった。
“バサッ”
優斗さんが音に気づき、振り返ったように見えたが、私は何故か走って逃げていた。
心臓がさっきよりもさらに、痛いほど鳴っている。
私は頭の中が、真っ白になっていた。
優斗さんと白崎さんは、一緒にいると美男美女でとてもお似合いだった。
やはり、私は長い夢を見ていたのかも知れない。
優斗さんが、私なんかを好きになるはずが無い。
自分の気持ちに蓋をしておけばよかった。
こんなにも惨めな気持ちにならなくて済んだのに…
泣きたくないのに、涙が溢れて前が見えない。
優斗さんを信じたい気持ちもあるが、目の前で見た事実は消えない。