イケメン御曹司の甘い魔法
私は何とか自分の席に戻り、午後の仕事を始めようとする。
しかし、どうしてもさっきの優斗さんと白崎さんの姿が頭から消えず、なかなか仕事に集中できない。
暫らくすると、優斗さんが私の後ろに立っていた。
「木下さん、ちょっと良いかな?」
「副社長、どのような事でしょうか?」
「----さっきの事で話したいことがあるのだけれど---」
「それは、急ぎでしょうか?」
私は優斗さんに振り向くことなく、淡々と話をした。
きっと可愛くないと思われているだろう。
振り向くと、涙が出てしまいそうで、振り向くことが出来なかったのが本音だった。
「---い---いや---急ぎではない。また後で話をしよう。」
優斗さんは行ってしまった。
後で話をしようと言っていたが、聞くのが恐かった。
コーヒーでも飲んで気持ちを落ち着かせようと、給湯室に向った。
給湯室に近づくと中から女性たちの声が聞こえて来た。
大好きな噂話に夢中のようだ。
「ねぇねぇ知ってる?副社長の所に来ていた女性---すごい美人だよね。」
「うん。元カノじゃないかってみんな言っていたよ!」
「木下さんよりずっとお似合いだったよね…フフフッ」
話しは全部聞こえていた。
でも、内容は全くその通りで、何も言えない。
女性たちは、私が廊下に居ることに気づいたようだ。
気まずそうに笑顔を作っている。
「----あっ-----き---木下さん---お疲れ様----」
「---このお菓子---良かったら食べてね---」
給湯室に一人になると、また涙が溢れてくる。
私は力が入らなくなり、給湯室の床に座り込んだ。
「芽衣!大丈夫!何をしているの!」
真理子が噂を聞いて、心配して来てくれたようだ。
「-----真理子!私------」
真理子を見て安心したからなのか、さらに涙が溢れては流れ出した。
真理子は優しく、頭を撫でてくれる。
「芽衣、藤堂さんと話はしたの?」
私は無言で首を横に振った。
「辛いけど、逃げちゃだめだよ。芽衣が逃げていたって何も変わらないよ!」