【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
押し寄せてくるこの既視感は。
数分後、私たちは特に大きな手掛りを見つけることも無く図書室を後にした。
「ねぇ、向日葵をもっと近くでみてもいいかしら?」
そして今度は、彼女の希望通りに向日葵の花壇へ足を運んでみた。例の図書室や美術室からも見える向日葵である。
毎年園芸部の人たちが花壇いっぱいに向日葵の種を巻いてくれているのだ。今の時期が一番綺麗に咲いている向日葵は、夏休み明けには悲しいことにクタクタになっているから勿体無い。
そして今年も立派に太陽に向かって咲いている向日葵に彼女は嬉しそうに近づいていく。私も後から追いかけるように続いていった。
「この前部員全員で向日葵のスケッチをしたばかりなんです」
「私も描いたことあるわ。なかなか難しいのよね、向日葵って」
そう言って、向日葵に目一杯顔を近づけて観察し始めた。
吹いた風に煽られて私より少し長い宏海さんの黒髪が靡く。
透明感があって・・・いや、確かに半透明の姿なのだけれど、凛とした佇まいの彼女と向日葵はとても絵になった。
写真で切り取ったような場面に思わず女の私でも身惚れてしまう。油絵で描いても良さそうだが、今の気分は水彩。より彼女の透明感が引き出せる気がする。
これほど被写体にぴったりな人はこの学校に誰もいないだろう。