【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
このまま彼女はふわっと消えてしまいそうだ。私と一緒に過ごした時間がまるで最初から存在しなかったかのように、簡単に消えてしまいそう。
なんとか繋ぎとめようとする思いで、ふと疑問に思ったことをそのままぶつける。
「ずっと気になっていたことがあるんです」
「うん。言ってみて?」
「宏海さんは、どうしてその人のことを好き「だった」っていつも過去形なんですか?」
これは本当に途中から私がずっと不思議と引っかかっていたものだった。
宏海さんはいつも想い人のことを「好きな人」ではなく何度も「好きだった人」と過去形で呼んでいる。
今でも好きだから最期に思い出したいと考えるのが普通だ。それなのに、彼女はあえて「だった」と過去形にしているように思えてはならなかったのだ。
「別に彼のことがもう好きじゃないわけではないの」
「だったら何で、」
「その人には、前を向いてほしいから」
もし既に彼女や家族がいたら私の思いは邪魔でしかないじゃない、と続ける。
私は反論した。勝手にその人のことを想う宏海さんは何も悪いことをしていないと。それでも彼女は否定するように首を横に振った。
「それに彼、優しいから。きっと私が事故に合ったことも自分の所為だと思っていそうだもの」
だから私との思い出は全て消し去って、何もなかったかのように前を向いて欲しい。
彼女の切なる願いは悔しいことに私にしか聞こえい。
でもそれはあんまりじゃないか。
私との思い出は全て消し去って欲しいと言う宏海さんの願いを知ったら、その想い人はきっと悲しんでしまうはずだ。
宏海さんが大切に想うように、きっとその人にとっても大切で忘れたくない思い出だと、そう思うから。