【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
「ふふ、幽霊にここまで想われるって、流石に気持ち悪いわよね」
秒針を刻む音がいやに美術室に響く。まるで最期までのカウントダウンのように。
少しずつ、少しずつ、その時が近づいてくる。
「そんなことありませんよ。それだけ想われることって、凄く羨ましいです」
窓枠に手を掛けて外を眺める宏海さんの後ろ姿は今にも消えてしまいそうだった。
どうにか彼女の願いを叶えたいのに、繋ぎ止めたいのに、約束の時間は刻一刻と迫っていく。
悲しくて、虚しくて、何かが喉の奥から飛び出してきそうなくらい気持ち悪かった。
それでも切羽詰まって考えを巡らせているとき、宏海さんは「そういえば」と口を開く。
「よくここから一緒にひまわりを見ていたの。一緒に何回もスケッチをして、私の自画像を描いてもらったこともあったのよ。ちょっと恥ずかしかったけど」
「自画像・・・?あ、」
その瞬間、私は目を見開く。
「もしかして・・・・、」
散らばっていたピースが一瞬で埋まっていく感覚にゴクリと息を呑む。
───ああ、彼女をどこで見たのか分かってしまった。
「ふふ、もう時間見たい。ごめんなさい、あなたの時間を取ってしまって」
自画像、その言葉を聞いて全部分かってしまった。
彼女の想い人が誰なのか。名前も、顔も・・・今どこにいるのかも。
全部、分かってしまったのだ。
「ありがとう、千尋ちゃ、」
夕日に照らされ今にも消えてしまいそうな宏海さんの元に駆け寄って、手を掴もうとするがその腕はもちろんすり抜けてしまう。本当もう時間が無いのだと一層焦燥感が募っていく。
「まだです・・・!まだ会ってないじゃないですか!もうここには来れないんでしょう?!」
彼女を窓際に追い詰めるようにして手をかけた縁に彫ってあってある文字。
“───サク君のことが好きです By H.K”
「会いに行きましょう・・・!宏海さんの好きだった人に・・・!」
そのメッセージを目に入れた私は駆け出した。